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Aldious: “Evoke 2010-2020” Album Review – Rami、Re:NO、そしてR!N
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まさに全知全能のRe:NOがバンドを去って周囲を驚かせてから、Aldiousは速やかに新たなボーカリストを迎えて活動を継続する旨を発表した。実際、Aldiousは2019年、100近いコンサートを詰め込んだ疲労困憊間違いなしのツアーでは、元CYNTIAのボーカリストであるSakiと、「Gemie」の名で澤野弘之のレコーディングにボーカリストとして参加していた比較的無名のR!Nに、ボーカルを無計画に分担させていた。最終的には、R!Nがボーカリストとして定着し、才能溢れるSakiは自身のソロ活動でキャリアを追求することになった。
ファンにR!Nを紹介するために、Aldiousは『Evoke 2010-2020』をリリースした。これは最大ヒット作品を集めたアルバムであり、R!NはAldiousの名曲の12曲(イギリス版では13曲)と1曲の新曲でボーカルを再録音した。このタイミングでバンドでは、新たな編曲、楽器編成、およびソロで楽曲を完全に再録音することは見送った。
そうではなく、初期から表舞台に躍り出るまでバンドに所属していたArutoのドラムパートを含めて、オリジナルの器楽トラック(以下の表を参照)が再利用された。『Evoke 2010-2020』版でオリジナルと大きく違っていたのは、「夜桜」のイントロに4秒のマルチトラックアカペラ「夜桜」が用いられたことのみである。
『Evoke 2010-2020』収録の楽曲のうち5曲は、Ramiが所属していた短期間からのものだ。Re:NOがバンドを率いていた時期の方がずっと長いため、特に理由がないのならこれは不釣り合いな数だ。さらに、Re:NO時代の楽曲は、はるかに広いジャンルから取り混ぜられている。この主な理由は、Re:NOが作品に与えていた影響に見出せる。確かにRe:NOは、『Dazed and Delight』収録の「Megalomaniac」や『Radiant A』収録の「Re:FIRE」など、ヘッドバンガーをいくつか書いてきた。しかし、『Evoke 2010-2020』には、Re:NOが単独または共同で作曲した楽曲は、「Utopia」の1作品だけである。ちなみにこの作品は、地獄の蓋が開かれるかのような、『Unlimited Diffusion』の冒頭収録曲だ。『Evoke 2010-2020』には、Re:NOのゴージャスなバラード、聴衆を虜にする彼女ならではのパワーポップ、それに彼女の魅惑的なミッドテンポのジャムは一切含まれていない。
しかしそれは問題ではない。『Evoke 2010-2020』はバンドにとってはリセットの契機なのかもしれない。Aldiousは、Rami時代のエネルギッシュなハードメタルのルーツに戻ろうとしている可能性も考えられる。もしそうであれば、Rami時代にTokiとYoshiが書いたメタルの楽曲をより多く再リリースすることをバンドが選択したのも納得できる。
より重要な疑問として、R!Nはこの勇気ある方針転換の中、いかに立ち回るのだろうか。その答えは、単にとても巧妙に、ではなく、完全に完璧に、だ。驚くべきことに、R!Nの声は、絶妙なRe:NOの歌声とレーザーのように鋭いRamiの歌声の、どこか中間の響きを持っているのだ。R!Nの声は、どちらかといえばややRamiの声に近い。これも、楽曲の選択の理由となったのかもしれない。それでいて、R!Nはいとも簡単に、かなり作風の違うRamiとRe:NOの楽曲の間を行ったり来たりできるのだ。
当然、R!NはオリジナルをRamiが録音した楽曲の方を、より上手くこなしている。R!Nは、「Spirit Black」ではRamiの歌声のつんざくような鋭さを完全には捉えきれていないかもしれないが、それでもかなり近いレベルで再現できている。「Eversince」のオリジナル版では、RamiはAメロ1番の胸の奥底から出す歌声から、サビでの驚異的なクレッシェンドに、いとも簡単に移行できている。R!Nは、クレッシェンドはある程度再現できているが、Ramiが胸の奥底から出すパワフルな歌声は出せないようだ。その結果、全体的な効果は、Ramiのバージョンの驚くべき音響的リーチと比べて、はるかにこじんまりしたものにとどまっている。
同様に、Re:NO作品のカバーでは、細かい点ではあるがアプローチに重要な違いが見られる。「Ground Angel」では、Re:NOがAメロ1番の冒頭で披露している奇妙にも気だるさを漂わせる歌声を、R!Nは再現できていない。驚くべきことに、Re:NOはこのとても異様な歌声を、DVDでリリースされている「Ground Angel」の2つのライブ版で、いとも簡単に再現している。R!Nのバージョンはもっと直接的で、音域も狭い。彼女のバージョンには、Re:NOのバージョンにあるAメロ1番の気だるさがないのだ。また、Re:NOがサビにもたらす燃え上がるようなエネルギーもない。
R!Nは、Re:NOの代名詞的存在のひとつとなっている大騒ぎの「Utopia」では、勇気を出して奮闘していることが伝わってくるが、Re:NOが作り出せる興奮を再現するには程遠い。その差は特にサビで歴然としている。語るも不思議だが、Re:NOはサビでは、火山の縁でタンゴを踊りながら、同時にビーチでマルガリータを嗜んでいるように思われるが、それが再現できていない。偽Cメロ(テンポを落としてほとんど器楽伴奏をなくしたサビ)では、Re:NOは絶妙な歌声を披露しているのだが、これをマスターできるハードロックのボーカリストはほとんどいない。
Re:NOのその他の楽曲の一部では、R!Nの方が一枚上手である。彼女のリメイクで最も成功しているのは、「Dominator」だ。R!Nは、ほとんどスタッカートであるかのように、音符を縮めている。これは、『Dazed and Delight』収録のRe:NOのバージョンとは大きく異なっており、R!Nはこの曲を本当の意味で自分のものにしているのだ。しかし「Absolute」では、彼女は大変スムーズに歌声を披露しており、Re:NOのオリジナル版とほとんど区別がつかない。どちらのアプローチも有効であり、そこからはR!Nの対応力の幅が見て取れる。
実際のところ、このようにR!NをRamiやRe:NOと詳細に比較するのはあまりフェアではない。R!Nがかつて2人が行ったことを再現しなければならない理由はない。R!Nはどちらのボーカリストをも超える能力を完璧に持ち合わせているのだ。
例えば、Re:NOはコンサートでは、Ramiの楽曲は驚くほど少数しか歌わなかった。それでも、バンドのネーミングの由来となった楽曲である「Ultimate Melodious」は、ライブに欠かせない作品となっている。Re:NOのパフォーマンス(2013年、2014年、および2017年のDVDに収録)は、Ramiのオリジナル版と比較すると、奇妙に淡白だ。それに対して、R!Nの「Ultimate Melodious」はどちらのパフォーマンスよりも秀でている。この作品の全ての要素にさらなる情熱とパワーを込めているのだ。
R!Nはまた、RamiもRe:NOもできなかった形でAldiousに貢献している。それは完璧に英語を操れるということだ。『Evoke 2010-2020』のイギリス版には、「We Are」の英語版がボーナスとして収録されており、母親がフィリピン人のR!Nは完璧に流暢な英語を披露している。サビでは、いくつかの音符で素敵な唸り声を聞かせてくれる。有名どころではLovebitesがしているように、Aldiousも楽曲を英語で録音していれば、海外市場でもっと成功を収めているのではないかと思ってしまう。
この新アルバムで異彩を放つのが、新曲の「I Wish For You」で、これはR!Nが書いたバラードだ。Aldiousの楽曲とは一切思えない作品であり、ややドラマチックすぎるかもしれないがポップバラードとして完璧に成立しているものだ。しかし、『Deep Exceed』収録のRamiの「Across」や『District Zero』収録のRe:NOの「菊花」に見られるメロディーの美しさには到底かなわない。それでも、R!Nは単に歌手であるだけではなく、ソングライターも務まるということを知れるのは嬉しいことだ。メロディーライティングの達人であり様々な音楽スタイルをマスターしていたRe:NOが到達したクリエイティビティーの高みに彼女も到達できるかどうかは、まだわからない。
R!NがRe:NOの「Dearly」もしくはRamiの「Bind」に挑戦を挑んでいるかどうかに関わらず、昔からのファンであれば彼女の楽曲へのアプローチにはほとんど文句がないはずだ。聴き手が「これは響きが変だ」と思うことは決してない。R!Nは前任の2人と比べればユニークな歌声は持ち合わせていないが、聴き手が彼女の歌声に疑問を持つことは決してない。R!Nは才能溢れる大物ボーカリストだ。それに異論はないはずだ。
R!Nがより厳しく試されるのは、ライブでのパフォーマンスになるだろう。Re:NO以上のカリスマ性を持ち合わせたバンドの顔はなかなか想像できない。Re:NOは、タトゥーや腰まであるプラチナの髪、それに流れるようなロングドレスなど、風貌を差し引いても、まさに大物というキャラクターの持ち主である。大胆でビッグな性格なのだ。アパートからファンと交流してAldiousの名曲のソロアコースティック版を弾き語る生配信セッションなど、彼女のSNSでの発信を見れば、彼女は近づきやすい性格でありつつエキセントリックな一面も持ち合わせていることがわかる。
ステージ上のRe:NOには、真のスーパースターらしい自信が漲っていた。聴衆を手のひらでつかむかのようだった。音楽家としてはYoshi、Toki、Sawa、そしてMarinaも同じくらい極めて才能豊かであるのに、ついついRe:NOに目がいってしまう。彼女の後任を務めるのは、どんな歌手にも困難だ。その点、CYNTIAのSakiの方がRe:NOの後任としては安全な選択になっていたかもしれない。なぜなら彼女は、すでにとても有名なバンドのカリスマ性溢れる顔となっていたからだ。
「Radiant A Live at O-East」(YouTubeで視聴可能)の「夜桜」のパフォーマンスを観て欲しい。いかに隅々までRe:NOがステージを支配できていたかが見て取れる。このパフォーマンスを、2020年のロサンゼルスのNAMMでのR!Nのバージョンと比べて欲しい。もちろん、ステージは小さめで、オーディエンスも熱狂的なファンというわけではなかった。そして、NAMMでTokiの代役を務めていたギタリストのNarumiは本当に目を見張る人物であり、そちらに目がいってしまうのも仕方がない。それでも、Re:NOとR!Nでは、ステージの支配の仕方にはっきりとした違いがある。
こうした評価はひょっとすると、結局のところバンドに加入したばかりのR!Nにはフェアではないかもしれない。どんな歌手であっても、Re:NOやRamiほどの大暴れを期待されては荷が重い。Ramiは、今年リリースされた『Rami: the Requiem』を観れば、声もパフォーマーとしての力量も全て健在だ。純粋に声質に関していえば、AldiousはRamiとRe:NOの本質的に異なるボーカルスタイルの代わりになる人物として、R!N以上のボーカリストを見つけることはできなかっただろう。それなら、大きな才能を持つボーカルのR!Nの声がRamiやRe:NOの声ほど印象深くないとすれば、それが何を意味するかは明白だろう。
Aldiousは、『Evoke』の第2弾が9月末にリリースされると発表した。出るのはため息だけだろう。R!Nにどの楽曲を再解釈させるかに関わらず、これはバンドがその未来像を描こうとしている今、この試みは、良くても停滞状態、悪ければ単なる金集めと言わざるを得ない。Aldiousが最後の新曲中心のアルバム、つまりEPの『ALL BROSE』をリリースしたのは、もう2年近く前のことだ。2年は、進歩の激しい日本のメタル/ロック界においては、永遠に等しい時間だ。
Aldiousのクリエイティビティーが最高潮だった頃、Aldiousの最も説得力のある、つまり最も意表をついた楽曲の多くを作曲したのも、歌詞を全て作詞したのも、Re:NOだ。しかし、YoshiとTokiの天才的な創造力も見逃してはならない。作曲家として、2人は常にヘビーメタルのリフの怪物のような存在であり続けている。2人は疑いなく、素晴らしい楽曲を書き続けるだろう。ファンはまた、Re:NO同様に、R!Nが彼女のユニークなビジョンをバンドに持ち込むことを願うだろう。Aldiousはこの10年で日本から出てきた中で、最も刺激的で成功を収めているバンドのひとつだ。そこにR!N/Gemieという素晴らしいボーカリストが加わった。このバンドの黄金期はこれから訪れるのかもしれない。
註:本記事は、Aldiousが2019年のツアーでR!NまたはSakiをボーカルに迎えて披露したセットリストについての情報がない状態で執筆されたものだ。これらのセットリストについて情報があり、互いにどう異なるのか、また本記事で紹介した見方とどう異なるのかについてご存知の読者の方には、ぜひコメントをいただきたい。
Song | Time | Time | Album | Original | Year | Music | Lyrics | |
Original | R!N | Singer | ||||||
1 | Spirit Black | 4:31 | 4:34 | Determination | Rami | 2011 | Yoshi, 小林信一 久武頼正 |
Rami |
2 | 夜桜 | 4:40 | 4:44 | District Zero | Re:NO | 2013 | Toki | Re:NO |
3 | Ground Angel | 4:36 | 4:37 | District Zero | Re:NO | 2013 | Yoshi | Rami |
4 | 胡蝶ノ夢 | 4:26 | 4:27 | Radiant A | Re:NO | 2015 | Toki | |
5 | Eversince | 3:53 | 3:52 | Deep Exceed | Rami | 2010 | Rami | Rami |
6 | Ultimate Melodious | 4:52 | 4:54 | Deep Exceed | Rami | 2010 | Yoshi | Rami |
7 | Utopia | 4:40 | 4:41 | Unlimited Diffusion | Re:NO | 2017 | Re:NO, ShinYMG | Re:NO |
8 | Dominator | 4:32 | 4:32 | Dazed And Delight | Re:NO | 2014 | Yoshi | Re:NO |
9 | Absolute | 4:19 | 4:17 | We Are | Re:NO | 2017 | Toki | Re:NO |
10 | Bind | 4:40 | 4:41 | Deep Exceed | Rami | 2010 | Yoshi | Rami |
11 | Dearly | 4:19 | 4:16 | Radiant A | Re:NO | 2015 | Yoshi | Re:NO |
12 | Deep | 4:18 | 4:20 | Deep Exceed | Rami | 2010 | Yoshi | Rami |
13 | We Are | 4:13 | 4:14 | We Are | Re:NO | 2017 | Yoshi | Re:NO |
14 | I Wish For You | 6:05 | R!N | 2020 | R!N | R!N |
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