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Asterismのニューヨーク市ライブ:2023年7月11日; 爆発的なメタルギターの夜:レビュー
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ロック音楽の批評家やファンは、特に燃え上がるようなギターソロについて、時折「顔が融けそう」という表現をする。この表現は、古臭いものになってしまっているかもしれないが、このほどヘビーメタルトリオのAsterismがニューヨーク市のS.O.B.’sにて行ったコンサート全体を、完璧に言い表す表現でもある。Asterismの演奏は、爆発的であり、魅惑的だった。このコンサートは、無料で聴くことができた。ニューヨーク市のような巨大な都市では、このようなスペシャルな夜も時折訪れるのだ。会場のインティメートな雰囲気、聴衆の熱気、そして最も重要な点として、ギターのHal-Ca、ベースのMiyu、そしてドラムのMioの催眠的な演奏が合わさることで、まさに忘れられないコンサートとなった。
Asterismの録音は、息を呑むものだ。しかし、世界最高のホームスピーカーシステムがあっても、Asterismのライブの燃えるような獰猛さを再現することはできない。それに、録音や映像からも、Hal-Caが全ての曲で披露しているフレットさばきの本当の凄さが伝わることはない。Hal-Caは、指板の端から端までダブルタッピングをしていようと、才気あふれたソロを披露していようと、単にパワーコードを大音量で鳴らしていようと、驚くほど彼女独特のスタイルで演奏している。このスタイルを最もよく言い表す言葉があるとすれば、それは衰えを知らない攻撃だ。Hal-Caの指が指板の端から端まで飛び回っているのをわずか数フィート先から眺めるというのは、まさに特別な体験だ。
器楽曲はしばしば、声楽曲と似たように構成されている。Aメロがあり、サビがあり、ソロがあり、Cメロがあり、そしてコーダがあるということだ。しかし、記憶に残る器楽曲を作り出すにあたって重要なのは、こうした各セクションにバリエーションを持たせて、セクションによって構成されているという事実を聴き手に一切意識させない能力だ。ハードロックの器楽曲の最も優秀な作り手である、Rie a.k.a. Suzaku、Narumi、ニタ・ストラウス、そしてD_Driveなどは、曲の中に意表を突く要素をたくさん加える方法を知っているので、聴き手は次に何が待ち受けているのか全くわからない。
Asterismも、自作曲において、聴き手を極めて巧みに驚かせてくれる。Asterismがこのほど自主リリースしたアルバム『GUERNICA-A』の冒頭を飾る「STARS」は、そのまさに好例だ。この曲のサビは、耳に残りやすいものでありながら、同時に燃えるようでもある。しかし、この曲のサビに到達するまでには、多くの捻りや意表を突く要素が散りばめられている。Hal-Caは、サビが来ると毎回、演奏のレベルをさらに1つ上げてくる。そして、移行部やCメロでは退いていく。バンドの他のメンバーが退いてまた戻ってくる箇所など、アレンジも重要だ。
同じく『GUERNICA-A』収録の2曲目「Gunfire」は、「STARS」とは印象が全く異なる。脅迫的かつ荒々しい雰囲気になり、「STARS」のノリノリ感からガラリと変わるのだ。しかし、まさにこうした理由から、ロックコンサートのプログラム構成は重要だ。それに、コンサート開始前の再生リストさえも、慎重に取りまとめられたものだった。Mardelas(!)、Doll$Boxx(!!)、そしてLa La Larks(!!!)などのアーティストの作品が含まれていたのだ。驚き!桃の木!!山椒の木!!!
Asterismは、2018年のEP盤『The Session, Vol. 2』収録の第3曲「Rising Moon」を演奏することで、バンドの歴史をかなり遡って振り返っている。「Rising Moon」は、Asterismの曲の中で、最も燃え上がるような曲の1つだ。Mioによるドラムのイントロが特徴で、Mioは曲全体を通して、エネルギーを下げることなくドラムを叩き続ける。
「Gunfire」の次にAsterismが演奏したのは、アニメテーマ曲の器楽バージョンをまとめたAsterismのアルバム『Animeto』からの2曲だった。人気の新アニメ『呪術廻戦』の最初のオープニングテーマ曲である「廻廻奇譚」は、白熱した器楽曲として編曲するのに、特に適した曲だ。Hal-Caのバージョンは、Eveのオリジナルバージョンよりも、大幅に興奮を呼ぶものとなっている。
やや古い『東京喰種』の最初のオープニングテーマ曲である「Unravel」は、複雑ではあれど、より主張の控えめなアニメテーマ曲だ。Asterismの自作曲と同じく、「Unravel」はコンパクトでありつつも複雑なのだ。優しいイントロはすぐに、カタルシスにつながっていく。コンサート前に、あるファンは「Asterismは楽しい」と語っていた。プログラムに幾つかのアニメテーマ曲が加わっていたことからも、このファンの発言の正しさがはっきりと証明されている。
Asterismは、元来器楽曲を専門とするバンドだ。しかし、Asterismは、Slipknotの「Before I Forget」の完璧なカバーを披露した。これが、この夜の大サプライズ第1号となった。驚くべきことに、Hal-Caは、コリィ・テイラーのボーカルを、軽々とやってのけたのだ。考えてみてほしい。コリィは、自分で首の周りが18インチあると言うような、有名歌手だ。Hal-Caがこれに挑戦しているという事実は、才能の証左である。
Hal-Caは、パワフルなアルトの音域で、ヘビーメタルだけではなく、伝統的なJロックにもぴったりだろう。Hal-Caは多様な歌声を持っている。それは特に、Hal-Caがサウンドチェック時に幾つかのアカペラセクションを歌った際に、はっきりと感じられた。
「Before I Forget」の次に、Hal-Caは、「Crazy Train」のカバーでオジー・オズボーンの声を再現してみせた。そもそも、多くのギタリストは、「オープンコード」を演奏しながら歌うことにも苦労する。なぜなら、ボーカルラインは、コードパターンと完全に異なっていることがあるからだ。しかし、少し練習すれば、ギタリストはこの技術を習得して、自然にできるようになる。それでも、複雑な嬰へ短調のブルースのコード進行を演奏するのと、伝説的なランディー・ローズの複雑な伴奏音型を演奏するのとでは、大きな違いがある。Hal-Caがこうしたソロの旋律を演奏しながら楽々と歌っているという事実だけで、本当に凄い。Hal-Caを観られたことは、コンサートに行ったからこそ楽しめた、素晴らしい体験だった。
Hal-Caは、女性フロントとしても驚くほどの経歴を持っている。まだたった20歳なのに、Hal-Caはデビュー20年のベテランのような自信を感じさせてくれる。Hal-Caは、コンサート前の搬入とサウンドチェックの時にも、冷静で緊張していないようだった。今日もいつものことをするだけ、という感じだった。ステージに立つと、Hal-Caは大物のメタル弾きに変貌し、聴衆のエネルギーを受け止めて、とてもドラマチックな雰囲気を作り出してくれる。Hal-Caは、腕のジェスチャーやまばゆい笑顔で、聴衆のエネルギーを高めていく。何度かあった短いMCセグメントでは、Hal-Caは全く誤りのない英語で聴衆に語りかけた。
ベースのMiyuとドラムのMioも、エキサイティングな演奏家で、周囲を引き込むような性格の持ち主だ。Miyuも何度か、ソロではステージの主役に躍り出て、ESPの7弦ベースで不可能に思われる魔法のような演奏をしてくれた。Miyuがほぼ第2ギタリストのような役割を引き受ける場面もあり、その際にはHal-Caのリードに合わせてコードを演奏し、同時にそこに自身の超絶技巧的なソロを加えていた。
Mioは何度か、ドラム席から飛び出して、聴衆の熱気を高めたことがあった。こうした瞬間は、どう頑張っても、CDやストリーミングサービスでは楽しめない。Mioのドラムさばきの狂ったような強烈さを噛み締めようと、時折かMioに注目していたのだが、まさにそうした注目に値する演奏をしてくれた。
Asterismは、バンド結成から現在まで、様々な時期の曲をカバーした。デビューフルアルバムからは、3曲を演奏していた。『Ignition』の冒頭を飾る4つ打ちの「BLAZE」は、ブーツィー・コリンズの耳障りなボーカルパートがなかったので、よりよい曲となっていた。また、「Light In The Darkness」も演奏していた。最も驚いたこととして、Asterismは長大な「DAWN」を演奏したのだが、そのムードは頻繁に変わり、ドラマチックで夢中になれる演奏だった。
Hal-CaとAsterismは、とても複雑で感情に響く器楽曲を作り出している。Hal-Caは、常に動き回っている。ステージをあちらこちらと跳び回って、怖くなるほどの激しさで頭を振り回し、長い髪を空中に舞い上げる。しかし、このように攻撃的な弾き方をするのに、一切弾き間違いがない。
日本のロック音楽をある程度知っているファンであれば、本当に素晴らしいギタリストを、少なくとも10人か20人、簡単に挙げられるだろう。真の熱狂的ファンであれば、さらに20人か30人、超絶技巧の使い手を挙げられるだろう。それも、女性ギタリストに限定してもだ。この事実は、日本のロック音楽シーンがまさにどれほど素晴らしいかを示している。
それでも、Hal-Caには何か特別なところがある。その特別さを作っている要因として、こちらまで若返ったかのように感じさせてくれる若さ、舞台上の素晴らしい身のこなし、説得力のあるフックを演奏する才能、そしてミスなく演奏する精確性など、いくつかの要因を挙げることもできるだろう。しかし、Hal-Caが他のギタリストと一線を画する最も大きな要因として、指板へのアタックがまさに獰猛であることが挙げられる。Hal-Caは、まさにギターの悪魔なのだ。
Asterismのマネジメント担当者のAmy(Manami)に、この場を借りて特別な感謝を伝えたい。Amyは、Asterismが会場に到着してから、コンサートが終わって長い時間が経つまで、大変親切だった。サウンドチェックにも最初から最後まで積極的に関わり、その細部へのこだわりと精確性は物凄かった。サウンドチェックとセットアップの際には、会場のクルーやスタッフと緊密に連携していた。Hal-Caのギターに少し最終調整が必要である可能性が浮上した時には、地元の人々に、ギターの修理店までの距離を尋ねていた。Amyは、グッズ販売スタンドを担当し、さらに聴衆に対してはコンサート後に写真撮影兼サイン会が行われることをしっかりと周知していた。その後、最後まで残っていた人全員のために、自ら写真を撮影してくれた。Amyは本当に素晴らしかった。
また、日本のバンドの場合、写真撮影会やサイン会に参加するには、チケット代に加えて75ドルから100ドルを支払わなければならないのが普通だ。しかし、Asterismは、写真撮影会とサイン会も、コンサート自体同様に無料で開催してくれた。時差ボケしているバンドが、このように必要以上のサービス精神を見せてくれた訳で、ここからはAsterismがどれほどファンのことを大切にしているかが伝わってくる。Asterismはどうやら、ニューヨーク市でのコンサートから48時間と経たないうちに、日本に戻っていたようだ。Asterismは、本当に特別なミュージシャンが揃っているバンドなのだ。
Setlist:
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