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LOVEBITES: 悪魔は細部に宿る

LOVEBITES: 悪魔は細部に宿る - Raijin Rock
LOVEBITES: 悪魔は細部に宿る

LOVEBITESは極めて精巧な機械細工で、それはまるでグランドセイコーの時計のようだ。

LOVEBITESは極めてパワフルな工業機械で、それはまさにレクサスLFAのようだ。

LOVEBITESは寸分の狂いさえなく、それはまさに、言うなれば宇宙のようだ。実際の宇宙の大規模構造、つまり基本的には重力、全ての物質を互いに引き寄せる万有引力のようだ。

それが意味するところをロック音楽の言葉で表現するなら、「We are Lovebites, and we play heavy metal(私たちはLOVEBITES、ヘビーメタルを演奏している)」をスローガンとする女性だけの日本人バンドであるLOVEBITESは、これまで舞台に上がったどのロックバンドよりも、複雑で、パワフルで、洗練されている、ということになる。

前段落のキーフレーズは、「舞台に上がった」という部分だ。LOVEBITESは、ライブ演奏を聴くことで最高に楽しめるバンドだからだ。もちろん運が良ければ、生で。そうでなくとも、LOVEBITESのライブ演奏のブルーレイ、DVD、およびCDは多く存在している。LOVEBITESの途方も無い魅力を少しでも垣間見せてくれるのは、彼らのライブでの演奏なのだ。

「1」

誤解のないよう記すと、LOVEBITESのスタジオ録音のアルバムやEP盤も、ロックの傑作だ。どの曲も、最高にイケている。サビにも、誰にでもわかる魅力がある。それに、バンドメンバーのボーカル担当asami、ドラム担当haruna、ベース担当miho、そしてギター担当のmiyakoとmidori tatematsuは、ビートルズ以来久しく目にしない魅力の持ち主だ。

そしてそう、LOVEBITESのプロデューサーたちは、この様々な魅力をバンドのライブ演奏にもう少しで匹敵するほどのアルバムにまとめあげている。スタジオ録音のアルバムにはスタジオならではトリックが満載であり、ほとんど圧倒されてしまうかの勢いだ。これほどギターの音が多くて壁のようにそびえ立つアルバムは、オアシスの不運なアルバム『Be Here Now』以降なかった。スタジオ録音を聴いていると、どこに耳を傾ければいいのかがわからない。

EP盤の『Golden Destination』は、こうしたプロデューサーによる過剰演出の典型例だ。それ以外の点は賞賛に値するアルバムだが、楽曲「Thunder Vengeance」の全くもって不要な「オーケストラ」版が収録されているのだ。神経を逆なでし続けるようなこのアルバムにどこかで「オーケストラ」が聞こえるものなら、それは聴力の鋭さに満足できるという程度の意味しかない。ベストな聴き方とは、とって付けたような弦楽器のセクションやシンセサイザーの音響を無視することだ。

そこで実際に問われるべきは、「LOVEBITESはアルバムと同じくらい複雑なものを、ライブ演奏でも実現できるのか」という点だ。その答えは、「くそたまげた、一体どうやってやってのけたのか」だ。

「2」

LOVEBITESのライブは、東京バレエ団の公演と同じくらい、振付のごとくタイミングが細かく決められている。ライブ演奏とオリジナルのスタジオ演奏のタイミングを少し比較してみるだけで、ライブでの楽曲の長さがスタジオのタイミングとほぼ一致することがわかる(下図参照)。タイミングの違いのほとんどは、オーディエンスの拍手とasamiからの発表が原因だ。素晴らしいリズムセクションをインイヤーモニターで聴くと最高だ。

そして、LOVEBITESは複雑な精密機器のようであるので、その詳細を1本の記事で全て捉えるのは不可能だ。本記事を皮切りにシリーズ化して、なぜLOVEBITESのライブをブルーレイ、DVD、またはCDで細かく聴いてみるべきかを探ることにする。

本シリーズの記事は、主に公式のライブ録音に基づいたものとなる。現在5つが入手可能で、6つ目は今月リリース予定だ。

  1. 『BATTLE IN THE EAST』、TSUTAYA O-Eastでのライブ録音(2018年6月28日)。CD『CLOCKWORK IMMORTALITY』のボーナスDVD。本シリーズでは以下『Battle』と呼ぶ。
  2. 『CRUSADERS STANDING AT WACKEN』、ドイツのWacken Open Airでのライブ録音(2018年8月4日)。CD『ELECTRIC PENTAGRAM』の一部パッケージのボーナスDVD(以下『Wacken』)。
  3. 『DAUGHTERS OF THE DAWN』、東京のマイナビBLITZ赤坂でのライブ録音(2019年1月27日)。DVDおよびCDとしてリリース(以下『Daughters』)。
  4. 『INVITATION TO THE THEATRE』、東京のEX THEATER ROPPONGIでのライブ録音(2019年7月12日)。『ELECTRIC PENTAGRAM』の一部パッケージのボーナスCD2枚組(以下『Invitation』)。
  5. 『FIVE OF A KIND』、東京のZepp DiverCityでのライブ録音(2020年2月21日)。スタンドアローンDVD、ブルーレイ、およびCDとしてリリース(以下『Five』)。

「3」

Battle』が他と異なるのは、ある時点までのLOVEBITESの全作品が収録されているということである。『THE LOVEBITES EP』、『AWAKENING FROM ABYSS』、および2枚目のEP盤である『BATTLE AGAINST DAMNATION』からの全楽曲が収められているのだ。実際、最新アルバムである『ELECTRIC PENTAGRAM』の4曲、EP盤の『GOLDEN DESTINATION』の2曲、そして最新のアニメシングル「Winds Of Transylvania」を除いて、バンドの全ての楽曲はライブ録音されている。『Invitation』にボーナスとして追加されているのは、バンド名の由来となったHalestormの楽曲「Lovebites」のカバーとmiyakoによるセルゲイ・ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番ハ短調」の冒頭の主題である。『Five』には、miyakoによるフレデリック・ショパンのOp.10、No.12「革命のエチュード」が収録されている。

Wacken』に関して特質すべきは、非常に珍しい録音が収められているということだ。LOVEBITESは全てのライブで完璧な演奏を披露できるように思われるかもしれないが、この録音に限って言えば幾らか完璧さを欠く点が見受けられる。「Over The Black Sea」では、midoriのソロの終盤で、わずかなためらいや意図せぬ弦を弾く音が聴こえる。「The Crusade」のイントロでは、miyakoのチョーキングの音程が意図したところに届かずにずれている。asamiが血も凍るような「Yeah」で各曲にアクセントを付ける際のオクターブの速い上行音形には、普段のスムーズさがない。これらは重箱の隅をつつくようなものではあるが、ライブ演奏のリスク、そして栄光を際立たせるものでもある。

「4」

悪魔は細部に宿る、という的を得た諺がある。LOVEBITESの演奏に関しては、ここで言う細部とは、大概miyakoとmidoriのギター演奏のことを指す。もしくは、midoriとmiyakoと言っても良い。 なぜなら、2人のうち片方が地球上で最速のギター奏者であるなら、2番手はもう片方だからだ。この問いに裁定を下せるのは、本人たち、つまりmidoriとmiyako(もしくはmiyakoとmidori)だけだ。

2018年のライブ録音では、『BATTLE IN THE EAST』(2018年6月28日)でも『CRUSADERS STANDING AT WACKEN』(2018年8月4日)でも、miyakoはバンドの左側、midoriは右側にいる。2019年には、2人の舞台上の位置が入れ替わった。そのため、『DAUGHTERS OF THE DAWN』、『INVITATION TO THE THEATRE』、および『FIVE OF A KIND』においては、midoriがバンドの左側、miyakoが右側だ。スタジオ録音では一般的に、リードギタリストがバンドの中央に立つ。アルバムノートには、どちらのギタリストがソロを演奏しているかが記載されている。一般則として、midoriもmiyakoも全ての楽曲でソロを演奏しており、特に器楽セクションの締めくくりに、しばしば一緒にデュオのギターソロを聞かせてくれる。

「5」

midoriとmiyakoの魅力は以下の通りだ。

  • クリエイティビティー。miyakoとmidoriはどちらも、ギターで誰も予想しないことにも躊躇せず、聴き手を常に驚かせ続ける才能の持ち主だ。この意味において、2人は過去のエキセントリックなギターの天才たちと真に肩を並べる存在だ。例えば、ブルーズの巨匠で言えばルーサー・アリスン(特にmiyako)、進歩的なエフェクターの使い手で言えばエイドリアン・ブリュー(特にmidori)、それにロックで言えばかの故EVH(miyakoとmidoriの両方)などの名前が挙がる。
  • 高い演奏技術。midoriとmiyakoは、ギターの速弾きの全てのテクニックをマスターしている。スウィープ・ピッキング、弦のタッピング、チョーキング、ピンチ・ハーモニクスなど、考えつくものは全てだ。ギターの速弾きには、途方もない努力が必要となる。メトロノームを使って、まずはゆっくりから、そして徐々に速度を上げていく練習を、何時間も行わなければならないのだ。これらのテクニック全てをこれほど高速かつ精確に用いることができるmiyakoとmidoriは、この技術に多大な労力を注いでいるに違いない。
  • 強烈な集中力。midoriとmiyakoは、舞台でもスタジオと同じことを、一切質を下げずにやってのけることができる。逆に、その強烈さがぐっと増すのだ。時には互いで掛け合い、時には互いにタッグを組む。その様子はほとんど、2人の指が絡み合っているかのようである。

miyakoとmidoriの持ちつ持たれつの不思議な関係が最もわかるのが、「We The United」の器楽セクションだ。ギター「ソロ」全体がmiyakoとmidoriのユニゾンで演奏されるという、異例の構成になっている。『Daughters』のバージョンのソロの輝かしい新古典主義的セクションにおいて、なぜ髪の毛を肩の後ろにかきあげるほどの余裕がmiyakoにあるのか、いつまでたってもわからないままかもしれない。

「6」

mihoとharunaのリズムセクションは、対照性の追求である。mihoは舞台に立つ中で、最も感情を表に出さないタイプだ。もちろん、ザ・フーのジョン・エントウィッスルなどのステレオタイプ的なストイックなベーシストほど平然としているわけではない。彼女には彼女らしいロックスターの身のこなしがある。しかし彼女は、その容赦なく激しいフレットさばきが簡単に見えてしまうような、苦労を見せない演奏をするのだ。

逆にharunaは、バンドメンバーの中でも最も強烈な集中力を見せてくれる。ほぼ常に目一杯まで前傾姿勢で全速力で駆け抜けていくバンドのドラマーなのだから、単にビートを保つだけでも許される立場だ。しかしそうではなく、彼女はクレバーなフィル、巧みなシンバルさばき、そして途絶えることのないキックドラムのビートからなる複雑なレパートリーを披露し、洗練された興味深い音響を作り出してくれる。harunaはこの魔法のようなリズムを実現するために途方もなく集中しているはずなのに、その顔は笑顔で、そこからは演奏を心から楽しんでいる様子が伝わってくる。

「7」

宇宙の物理法則のメタファーに立ち戻るとすれば、NASAの定義では、重力とは惑星やその他の天体が物体をその中心に引き寄せる力とのことだ。驚くべきことでもないが、LOVEBITESの重力源はボーカルのasamiだ。彼女の歌い手としての魅力は、ほとんど全てのジャンルの音楽に合うその声だけではなく、舞台上で放つ圧倒的な存在感でもある。 パフォーマーがオーディエンスを「掌に平然と握っているかのよう」というクリシェをよく聞く。asamiの存在感は、そんなクリシェも笑ってしまうほどだ。彼女はどういうわけか、オーディエンスと一体になれるのだ。

本シリーズの次の記事では、asamiをロック音楽界で最もエキサイティングな歌い手の1人たらしめる、彼女の歌声とパフォーマンスの特徴を探る。また、彼女のファンであれば彼女が歌うジャズのスタンダードである「Vanity」と「Solitude」を聴きたいと要求すべき理由も説明する。

本シリーズのその後の記事では、各器楽奏者、ソングライティング、アレンジ、そしてその他の側面から、LOVEBITESについて考察する。

トップメニューの「English」をクリックすると、本記事の英語版を閲覧できます。

Battle Crusaders
In The Standing
Lyrics Music Time East Time At Wacken Time
6/28/2018 8/4/2018
The Lovebites EP
1 Don’t Bite The Dust Miho Mao/Miho 4:13 13 4:13 4 4:20
2 The Apocalypse Miho Mao/Miho 5:00 9 5:00
3 Scream For Me Dr. U Miyako 5:46 5 7:15
4 Bravehearted Haruna Haruna 6:10 12 7:18
Awakening From Abyss
1 The Awakening Miyako 2:05 1 1:13 1 0:55
2 The Hammer Of Wrath Miho Mao/Miho 4:41 10 4:56 2 4:51
3 Warning Shot Asami Miyako 4:03 3 4:01
4 Shadowmaker Asami Miyako 5:42 6 5:57 6 6:23
5 Scream For Me Dr. U Miyako 6:12 5 7:15
6 Liar Dr. U Miyako 6:03 11 6:24
7 Burden of Time Miho Mao/Miho 4:46 12 5:05
8 The Apocalypse Miho Mao/Miho 6:12 9 5:00
9 Inspire Asami Araken 5:20 8 5:34
10 Don’t Bite The Dust Miho Mao/Miho 4:13 13 4:13 4 4:20
11 Edge Of The World Asami Mao 6:44 15 7:08
12 Bravehearted Asami/Haruna Haruna 6:11 16 7:18
Battle Against Damnation
1 The Crusade Miho Miyako 4:51 2 5:43 3 4:56
2 Break The Wall Miho Miho/Miyako 5:25 4 5:27
3 Above The Black Sea Asami Miyako 5:05 7 5:13 5 5:14
4 Under The Red Sky Asami Mao 5:50 14 6:54
Daughters Invitation Five
Of The To The Of A
Lyrics Music Time Dawn Time Theater Time Kind Time
1/27/2019 7/12/2019 2/21/2020
The Lovebites EP
1 Don’t Bite The Dust Miho Mao/Miho 4:13 17 4:10 3 4:13 3 4:13
2 The Apocalypse Miho Mao/Miho 5:00
3 Scream For Me Dr. U Miyako 5:46
4 Bravehearted Haruna Haruna 6:10 3 7:14 17 6:40
Awakening From Abyss
1 The Awakening Miyako 2:05 1 2:10 16 2:09
2 The Hammer Of Wrath Miho Mao/Miho 4:41 8 5:08 17 5:03
3 Warning Shot Asami Miyako 4:03
4 Shadowmaker Asami Miyako 5:42 9 5:57 16 6:16 7 6:17
5 Scream For Me Dr. U Miyako 6:12 7 6:38
6 Liar Dr. U Miyako 6:03 14 6:55
7 Burden of Time Miho Mao/Miho 4:46
8 The Apocalypse Miho Mao/Miho 6:12 2 4:51
9 Inspire Asami Araken 5:20 7 5:35
10 Don’t Bite The Dust Miho Mao/Miho 4:13 17 4:10 3 4:13 3 4:13
11 Edge Of The World Asami Mao 6:44 14 7:34 18 7:24
12 Bravehearted Asami/Haruna Haruna 6:11 3 7:14 17 6:40
Battle Against Damnation
1 The Crusade Miho Miyako 4:51 4 4:56
2 Break The Wall Miho Miho/Miyako 5:25 8 5:46 5 5:25 6 5:40
3 Above The Black Sea Asami Miyako 5:05 10 5:12
4 Under The Red Sky Asami Mao 5:50 18 6:30 19 7:16
Clockwork Immortality
1 Addicted Asami Miyako 5:25 2 5:25 10 5:30
2 Pledge Of The Saviour Asami Miyako 5:18 5 4:47
3 Rising Asami MIyako 5:45 6 6:55 4 6:35 4 6:48
4 Empty Daydream Asami Miyako 5:16 11 7:27 11 6:24
5 Mastermind 01 Asami MIyako 4:19 6 4:29
6 M.D.O. Miho Mao/Miho 4:16 12 4:14 13 4:34 13 4:20
7 Journey To The Otherside Miho Mao/Miho 4:47 13 5:05
8 The Final Collision Miho Mao/Miho 5:45 10 5:48
9 We The United Asami Mao 5:29 15 6:10 18 6:04 19 7:20
10 Epilogue Asami Asami/Mao 7:07 16 8:03
Electric Pentagram
1 Thunder Vengeance Miho Mao/Miho 5:33 1 6:48
2 Holy War Lovebites Mao/Miho 5:57 2 5:54
3 Golden Destination Miho Mao/Miho 6:03 14 6:31
4 Raise Some Hell Asami Miyako 5:21 5 5:25
5 Today Is The Day Asami Miyako 5:51
6 When Destinies Align Asami Miyako 6:06 15 7:13
7 A Frozen Serenade Asami Asami/Mao 6:48
8 Dancing With The Devil Asami/Midori Mao/Midori 5:09 11 5:20
9 Signs Of Deliverance Asami Miyako 5:09 12 5:07 12 6:11
10 Set The World On Fire Asami Miyako 5:47
11 The Unbroken Miho Mao/Miho 6:31
12 Swan Song Asami Miyako 6:27 9 6:36
Frederic Chopin – Etude Op 10, No 12 (Revolutionary Etude) 9 1:50 8 1:30
LOVE BITES (SO DO I) 15 3:08
Clockwork Immortality (Intro) 1 1:02
The Everlasting (Outro) 19 2:11
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