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Rie a.k.a. Suzaku: Rudra – アルバムレビュー
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マルチジャンルコンポーザー/超人的ギタリスト/キーボード奏者Rie a.k.a. Suzakuがデモ楽曲と過去アルバム未収録曲を集めたCD-ROM、Rudraをリリースした。Rudra はRieのレコード会社(records@poppin.jp)へのメール申し込みでのみ購入できる。ここに収録された10曲は 、少々イライラさせられる点はあるにせよどれも魅力的で、 Rieの作品作りのプロセスを垣間見せてくれる。
古くからのファンはこのアルバムにRieの音楽を特徴づける主な要素の全て ― 見事なメロディ、圧倒的な抒情性、驚異的で華麗なフレットテクニック ― を見出すだろう。いつものようにRieの演奏は考え抜かれ、独創的で、驚きに満ちている。 彼女のレガートのテクニックは相変わらず素晴らしい。スラー、弦のベンディング、正確なピッキング、ワーミーバーへの軽やかなフェザータッチなどを駆使して彼女はまるで渓流のように滑らかなサウンドを創り出している。RieはおそらくRudraの楽曲で実験を行っている。例えばRudraのサウンドは、彼女がこの前出したインストルメンタルアルバムTop Runnerのそれとはいくつかの点で異なっている。最も明白な違いは、彼女がギターから引き出すトーンである。彼女はこれまでもサウンドの要素としてコンプレッサーペダルを重視しているようだったが、Rudraではさらにコンプレッションが目立っている。これはおそらくアンプでのゲインをクランクさせて、クリアなサウンドがより素早く立ち上がるようにしたためだろう。その結果ギターのサウンドのひずみが以前より大きくなっている。さらにかつてのアルバムに比べると、ギターをミックスに包み込むシンセサイザーのサウンドスケープが若干派手めになっている。
しかしこれらはRieのようなアーティストを語る時にはさほど重要な点ではない。彼女の音楽へのアプローチは基本的には 19世紀の偉大なクラッシック作曲家たちのそれと同じである。これらの作曲家と同様、Rieは目を瞠るほど幅広い音楽言語を用い 、感情を呼び起こすメロディを書き、主題とその展開を用いてまとまりのある全体を作り上げる。音楽言語に関して言えば、彼女は多彩な旋法と音階を用いて作曲する。彼女は調性中心音 ― 楽曲の全ての音がそこで解決する音 ― をイントロから主題にかけて変化させる。サビに至るまでの「ヴァース」部分の短調がサビ(「コーラス」)では長調に転調し、そこに勝利の感覚が生まれたりするのである。
実際のところ、多くの楽曲は、「ヴァース(サビ前のイントロやAメロ)」、「コーラス(サビ)」、「ブリッジ(Bメロ)」というスタンダードな構成から成る。しかしRieは単に自身のメロディを繰り返すことはせず、メロディを変化させることにいつも関心を傾けている。例えばヴァースの部分を繰り返しながらテンポを変えたり、メロディの予想される最高音に更に高い音を重ねたりする。『Zero=∞』、『False World』といった楽曲の終盤では彼女は決まって激しい「ソロ」セクションを爆発させ、そこで鳥肌の立つような高速フレット技を披露している。
『Wheel of Fortune』は7分12秒の作品で、おそらくこのアルバムの中でも感情が非常に高まる1曲だ。最初の1分を支配するのは何かを探して不満げに呟いているようなキーボードのサウンドだ。曲の大部分を占める主題とその変奏の後、30秒の「ソロ」が爆発し、最後にもう一度主題が繰り返される。まるで人生の紆余曲折を音楽でじっくりと辿りながら吟味しているようだ。
アルバム最後の『for you…』は美しいピアノのアルペジオで始まる。主題部分は本当に素晴らしい。この曲は歌詞を付ければUnlucky Morpheus 、DOLL$BOXXの変幻自在のシンガー天外冬黄(Fuki)がソロプロジェクトで歌うのにぴったりの1曲になるだろう。聞いてみたい音楽コラボである。哀愁を帯びた曲調の『for you…』は、魅力的なアルバムの完璧な締めくくりである。
RieはRudraで、また1枚素晴らしいアルバムを出したと言えるが、それがはらむ若干の謎にはイライラを感じてしまう。このアルバムにはクレジットもなければアルバムノートもない。どれがオリジナル曲でどれがカバーなのかもはっきりしない。poppin.jpのウェブサイトには英語でAll instrumental by Rie a.k.a. Suzakuと記載されている。それはつまりRieが全ての楽器の演奏、プログラミングの責任を自身で負っているということだ。『Wheel of Fortune』の美しいピアノを弾いているのはRieだ。『Answer Back』でワイルドなベースのソロを弾いているのもRieだ。ではドラムは?知る術はないがもちろん彼女だ。ドラムのサウンドが、PCへの打ち込みによるものでも完全に生音源のそれのように聞こえても驚くにはあたらない。常に全責任を負ってアルバムの制作とプログラミングにあたっているRieはスタジオの魔術師だ。だから当然ドラム、シンセ、ベースにもギター演奏に対してと同じように細心の注意を払っている。言うまでもなく全部が非常に素晴らしい。
この一連の楽曲はどうやらフルCDリリースには価しないと考えられたようだが、なぜなのだろう。この点は本当に謎である。どの曲も未完成とは思えない。着想は有望だったのに成功に至らなかった曲など1曲もなさそうだ。能力が十全に発揮されていない曲もなさそうだ。おそらく単にタイミングと、Top Runnerのリリースから1年経っていないという事情によるものなのだろう。多分彼女があまりにも次から次にとめどなく曲を作りすぎるのだ。
Rieは偉大なアーティストだ。偉大なアーティストの例に漏れず、彼女は全身全霊を捧げて作品を創る。Rudraの楽曲は完成形ではなくデモトラック、過去アルバム未収録曲かもしれない。それでもそのオリジナリティ、そのマジック、そして楽曲への念の入れようはRieの偉大な芸術性の証である。
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