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BAND-MAID: Different
しかし、このリフに乗せて演奏される歌波のリードギターのメロディックな旋律は、明らかに伝統的な日本音階に影響を受けている。それを聞いて真っ先に浮かぶ印象とは、この作品では最もハードなハードロックと日本の旅館で聴くような優しい音色が見事に融合されているということだ。これは不調和でありつつたまらなく魅力的な組み合わせだ。そして最高にイケている。
日本語話者でなければ、「Come back to, come back to,(戻ってきて、戻ってきて)」、それに「Just you wait…(ちょっと待って)」や「deep in the dark(暗闇の奥深くで)」などの脈絡のない幾つかの英語の部分以外は、歌詞が理解できない。一体何が起きているのか、Aメロはどこか、サビはどこか、これは狂気の音楽だと感じるはずだ。
このどんちゃん騒ぎを何度か聴いたら、この曲の公式動画を観てみよう。語るも不思議なことだが、この動画には歌詞の英訳がある。
昏天黒地
眩んだ常軌
Make it a rule
視界は疾走
Come back to,
Come back to,
Rise from the dead.
嘆き祈っても行き止まりだって
神々どうか?
誰も聞いちゃいない
目に見えないモノじゃ信じ得ない
The clock is ticking
これはまさに原理主義的なニヒリズムだ。ジャン=ポール・サルトルでさえ、これ以上に魂を押しつぶすようなものは書けなかっただろう。あれほど可愛らしく愛嬌のある小鳩ミクに、これほど強烈に人生の無意味さを訴えるものを書けると、誰が想像していただろうか。
しかしミクの歌詞はこう続く。
でもまだやめない
Just you wait!
Totally different world
無気力に焚き付けて
心憂う
Awake your potential!
渦巻く世界は
まるで現実のように
フラッシュして揺らいでく
Let’s go!
It’s showtime!
ミクが何を言いたいか、そして彩姫が何を歌っているかというと、それは私たちに耳を傾けてくれる神がいなくても関係ない、見えないものの存在が信じられなくても関係ない、それでも人生の意味を見つけられる、ということだ。つまり「悪魔か天使か 表裏は一体」であっても関係ないということだ。
BAND-MAIDは聴き手に対して、「適度に適応?それ必要?Nobody knows(誰にもわからない)」と問いかける。
彩姫が歌う通り、人生は地獄のように困難なこともある。
Once more 翳りさす勇気
Once more 蘇るループ
No more! でもまだやめない
Just you wait!
これは、フリードリッヒ・ニーチェの名言「一度も踊らなかった日は失われた日と考えるべきだ。それに一度も笑われなかった真実は偽りのものだと言うべきだ」を想起させる。
「Different」が伝えようとしている究極的なメッセージは、ニーチェの達した結論に似ている。人間はその精神の不屈さを武器に、人生が無意味だと思われてもそれに克てるという結論だ。踊らなければ、その日は無駄になったということだ。「Different」を締めくくる歌詞は、「Your time to shine(君が輝く番)」だ。
無意味な世界を前にして、BAND-MAIDがオーディエンスに伝えようとしているのは、それでも変化を起こせるということ、人生で素晴らしい目標を達成できるということだ。座り込んで何もしない言い訳などない。まさに「Let’s go! It’s show time!(いくぞ!ショータイムだ!)」
そこに託されているのは、人生は希望がないように思われるかもしれないが、それでも変化を起こせるというメッセージだ。人生を無駄にしたいならそうすればいいが、この人生こそ自分に与えられたたった1回の「ショータイム」であることに気づくべきで、だからこそそれを最大限生かすべきだ、ということだ。BAND-MAIDのファンでなくとも、日本のロック音楽のファンでなくとも、この歌詞の深淵さは理解できるだろう。
もちろん、ジョン・レノンのような天才であれば、「imagine there’s no heaven…it’s easy if you try…no hell below us…above us only sky(天国などないと想像してみて… 想像してみたら簡単だよ… 地下にも地獄などないと想像してみて… あるのは高く広がる空だけだと)」といった、極めて意味を凝縮した歌詞を書くことができただろう。ボブ・ディランのような天才であれば、「Inside the museums, infinity goes up on trial…Voices echo this is what salvation must be like after a while(博物館では、無限が裁判にかけられる… しばらくすると救済とはまさにこういうものだという声が響く)」といったようにも書ける。
しかし、「メイドカフェ」で店員が着るような衣装をその美意識の中心に据えた女性だけの日本人ハードロックバンドから、これほど絶望的でありつつも深淵で、究極的にインスピレーションに溢れる歌詞を聴くのは、他とは完全に一線を画す体験だ。
それからもちろん、歌波が演奏するギターリフは、飛び抜けて強烈に響く。茜が演奏するドラムは、どこまでも疾走感のあるリズムを刻む。ミサのベースはいつものことではあるが、聴き手のバランス感覚を崩してくる。ミクのリズムギターは容赦がない。彩姫のボーカルには、彼女にしかできない魅力があり、それを聴いたオーディエンスはいつも、本当に耳をすませて彼女の歌声に聴き入ってしまう。
BAND-MAID。「Different」。これこそ、今年最高傑作のシングルだ。 正直に言って、2020年は大変な年だった。BAND-MAIDはそんな過酷さと向き合って、解決策を提示してくれているのだ。「Let’s go! It’s show time!いくぞ!ショータイムだ!)」と。トップメニューの「English」をクリックすると、本記事の英語版を閲覧できます。
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