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BRIDEAR: Kimi, 強力なオペラのスリル

BRIDEAR: Kimi, 強力なオペラのスリル - Raijin Rock
BRIDEAR: Kimi, 強力なオペラのスリル

過去の偉大な伝統の歌手

パワーメタルバンドBRIDEARのボーカリストであるKimiは、人間の声が原始的で最も強力な感情表現ツールであることを本能的に理解しているようです。 彼女は非常に才能のあるボーカリストの一人であり、聴衆との距離をなくすることができる不思議な才能を持っています。歴史を通して、偉大な歌手は、自らの声を通して幅広い感情を伝え聴衆を魅了してきました。たとえば、Saint-Saensのオペラ「Samson et Dalila」の「Mon coeur s’ouvre a ta voix」におけるShirley Verrettの声は、情熱、欲望、欺瞞などの幅広い感情を表現するのに完璧な楽器でした。 まったくタイプは違いますが、Sarah Vaughanは「Vanity」を歌うとき聴衆のハートを引き裂くことができたと言われています。この作品で彼女は語り手の絶望感と後悔をうまく表現していました。

ロックミュージックは、その分かりやすさ、エネルギー、カオスといった特色をもって伝統的な音楽の型にとらわれないため歌手にとっては本当に興奮する体験です。 ロックミュージックは、世界のリアルな混沌を反映しています。 歌手はロックミュージックを通して自らの思いを吐きだすことができます。Bruce Springsteenによって書かれた素晴らしいロックの歌詞、「この町は敗者で埋め尽くされている。俺は勝利を求めてここを出ていくのさ」を聞くと聴衆は勇敢さや欲望だけでなく物事に対する健全な疑いを感じることができます。 Kimiも同じようなものを彼女の歌を通して強烈に伝えています。

Rebirth

BRIDEARは2011年頃から活動しています。当時、バンドはKimi、ギタリストのMisaと美弦、ベーシストのHaru、ドラマーのKaiで構成されていました。 Kimi、Misa、美弦が主なソングライターでした。 彼女たちの最初のEP「Overturn the Doom」(2013)は、このバンドが注目すべきニューカマーであることを物語っていました。覚えやすいメロディ及びサビとテクニカルな演奏の融合により全ての曲は重厚で高い緊張感を保っており、度々マイナーからメジャーに転調することにより高揚する勝利の感覚を作り出しています。最後の曲「Wing of Hope」は、約7分もの長さの中、それぞれの瞬間に意味があり彼女たちを代表する素晴らしい一曲といえます。

BRIDEARの最初のフルアルバムBaryte(2016)は、以前からの特徴を継承しているものの、バンドは新しい試みもしています。 たとえば、Misaは数曲でグロウルすることにより全体の重厚感を高めました。 続くEP「Rise」と「Helix」(2017年と2018年発表)でもMisaによる「Remedy」や美弦による「Dear Bride」などの曲で彼女たちの様々な試みをみることができます。

そのころBRIDEARはバラバラになり始めました。 Misa、美弦、Kaiは、2017年後半から2019年初頭にかけてバンドを脱退してしまいましたがKimiとHaruはなんとかバンドの存続させました。 その後、新しいギタリスト/ソングライターとしてMisakiとAyumiそして新ドラマーとしてNatsumiが加入しました。そして 再び息を吹き返したBRIDEARは新しいフルアルバム「Expose Your Emotions」を発表します。「Expose Your Emotions」は確かに以前の作品とは異なっています。より直接的なアプローチで派手さは影を潜めたものの 4人のメンバーが曲作りに貢献したことにより一体感のあるアルバムとなりました。 新メンバーのMisaki、Ayumi、Natsumiによる曲とパフォーマンスは、BRIDEARのポテンシャルとカッコよさが何も変わっていないことを証明しました。

misery machine

多くの意味で、Kimiの声はBRIDEARをひとつにまとめる役割を果たしています。 日本語の歌詞や厄介な英語(時々)を理解する必要は必ずしもありません。変わらない繊細さとリズミカルな彼女の表情豊かな声色は、まさにその役割を果たしています。彼女の声は、ロックミュージックの世界で最も説得力のあるものの1つといえるでしょう。 彼女はその声を通しさまざまな感情を伝えコミュニケーションをとることができ、聴衆はしばしば共に歌うことによってそれに応えます。

BRIDEARの歌詞の多くには、絶望、切迫感、希望が入り混じっています。 これは、「Thunder Road」の歌詞に非常によく似ています。 主人公は何かを必要とし、彼女はそれを得ることができないことを恐れています。 主人公は、彼女の欲望、恐れ、楽観主義、そして克服しなければならない障害について彼女の気持ちを表現します。 さらに、BRIDEARの歌のキャラクターは、彼らがいるべき場所により早く到達しなければならない気持ちをよく示しています。 しかし、Kimiが運転している車は、いつも、崖っぷちを注意深く運転しているかのようです。 ただ問題なく目的地に到着できるかどうか分からないまま危険を冒していることには間違いありません。

In The Labyrinth

2018年のEP「Helix」からの「In the Labyrinth」はKimiの表現力をよく示しています。この歌は「こわれてしまえば、くだけてしまえば」というコーラスから始まります。 その後、ギターによるマイナーなメロディーが加わります。 歌い始めたKimiの声から緊張を感じ取れるでしょう。 マイナーコードは、Kimiの感情を高めるのに一役買っています。

「In the Labyrinth」でのKaiのダイナミックなドラムは、Kimiを勢いに載せていきます。 Kaiは、Kimiによる苦しみを強調するため、いくつかのポイントで一連の高速シンバルクラッシュ(クシュ、クシュ、クシュ、休符、クシュ)を取り入れています。 コーラスに再び戻る前に、バンドは演奏を一旦止めてKimiの声が曲を牽引するためのスペースを与えます。 Kimiによる最後の言葉は、悲しみがまだ終わっていないことを示す、苦痛に満ちた「あと、どれくらい?」でした。

My Heart Sigh

多くのBRIDEARの歌は、愛の激しい一面と、欲望、興奮、不満や怒りといった多くの感情を呼び起こします。 Overturn the Doomの「Thread of the Light」は、Kimiは“Inside of darkness/I begin to walk by groping…”(暗闇の中/手探りで歩き始める…)という歌詞で後者の2つの感情を表現しています。不快で憂鬱なギターのリフは、絡みつく混乱を増しています。彼女にとって英語による歌詞は扱いにくいかもしれませんが、Kimiは魅力的なアクセントにより不明確な目標を達成しようと努力している女性の気持ちを伝えることに成功しています。

Baryte」アルバムの曲「Traces of Tears」で扱われているテーマは、Sarah Vaughanの歌う「Vanity」における「あなたが再び許すまで、私は二度と生きることはないだろう」という一節を思い出させます。「Vanity」の主人公と同様に「Traces of Tears」の主人公は、過去の愛の記憶に悩まされています。 彼女は英語で「the places we once were…the scenes we saw together」と歌いました。歌詞は全体的に暗いものとなっています。 「私は生きるために必要なものをすべて失った」 「自分の願いを叶えられない運命を呪っている。」 Kimiはすべての言葉に激しい痛みを吹き込みます。Kimiがこの曲で表現した感情について、微妙な点や曖昧な点はありません。ドラマチックなコーラスにおける彼女の歌唱は誠実で感動的です。

Another Name

Kimiは苦悩を表現するだけではありません。 Helix EPからのアップテンポなハードロック「Dear Bride」は、楽観的な人生賛歌です。BRIDEARにとっては珍しいことですが、この曲は最初から最後までメジャーキーが使用されています。これは、典型的な J-Popとは大きく異なる点です。 歌は「さあ、今、新しいストーリー始めよう。怖がらずこの手をとって」という歌詞から始まります。「Dear Bride」におけるKimiのボーカルは最初から情熱的です。 「私は人生の岐路に立っている」と歌うことで、Kimiは過去の痛みを認めながらも、喜びに満ちた輝きを声にすることで、前進したいという強い思いを表明しています。 全体的に楽観的な歌にもかかわらず、Kimiはこの物語がまだ経過中であることを匂わせています。それでも、彼女は次の章を書く用意ができており、また、そうします。

BRIDEARの歌においては、Kimiの声が本当に不可欠だと思わせる印象的な瞬間が多くあります。  EP「Helix」の「Cluster Amaryllis」の終盤に向かうアカペラセクションで、Kimiは過去の間違いを後にして将来を信じることについて歌っています。 エフェクトが掛かっていても彼女の特徴的な歌唱による絶望感、切迫感、希望を感じることができます。 何よりも、彼女の絡みつくような声は、ただただ、この歌を聴け、と訴えてきます。

Skew Lines

素晴らしいシンガーがライブでパフォーマンスをするのを観ることは常に示唆に富んでいます。 幸いなことに、2018年に撮影されたMarcasiteというライブDVDでは、Kimiが彼女の個性と感情を見事に表現しているのを観ることができます。 このコンサートを通してKimiには獲物を狙うヒョウにも似た雰囲気があります。 彼女は観客に寄り添い、情熱的な眼差しと共に胸をたたきます。 彼女は、その感情が本物であるということを、表情豊かな声だけでなく実際のパフォーマンスにおいても納得させています。

アンコールの壮大な「Wing of Hope」を観てください。Kimiは右手でマイクを持ち、左手で歌詞を強調するジェスチャーを加えます。 Shirley Verrett やSarah Vaughanといった様々なジャンルの偉大な歌手と同様、彼女は、このように歌われるすべての単語に意味を持たせているのです。

ShirleyやSarahのように、Kimiは彼女の個性、衝動、想いをBRIDEARの歌に投影しています。 Kimiは物語を紡ぎ、それが聴くに値するということを主張できるソウルシンガーです。 曲ごとに、Kimiは聴衆を魅惑的な感情の旅に連れて行きます。 彼女の描く人物像はしばしば絶望から始まり、常にハッピーエンドとは限りませんが、常に崖に沿って疾走する車を制御するかの如く目的地に到着する能力に自信を持っているかのようです。

 

 

 

 

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