Now reading

GLIM SPANKY: Walking On Fire アルバムレビュー

GLIM SPANKY: Walking On Fire アルバムレビュー - Raijin Rock
GLIM SPANKY: Walking On Fire アルバムレビュー
GLIM SPANKY の新アルバム Walking On Fireには、シンガーソングライター兼ギタリスト・松尾レミとギタリスト・亀本寛貴による新たな一連の名曲が収められている。 レミは間違いなく21世紀最高のソングライターの一人だ。メインストリームクラシックロックのジャンルでレミよりも優れた曲を書く人間はいないかもしれない。そして寛貴は独創性あふれるリックやソロで、どんな曲もよりよいものにしてしまう奇跡的な才能を持つ。

「1」

Walking On Fire は同バンドの6年のキャリアにおいて、数々のEPやシングル、ライブDVDに次ぐ5枚目のアルバムとなる。これはどこか不揃いな一枚ともいえる2018年のアルバムLOOKING FOR THE MAGICを経て、原点回帰となるアルバムだ。LOOKINGのベスト4曲、「愚か者たち」(“Fools”)、 “All Of Us”、“To The Music”、“In The Air” を含む同アルバム収録曲のほとんどが以前シングルリリースされたものであった。

強力なソウルの2曲 “To The Music” と “In The Air” は実に優れた名曲だ。レミと寛貴が生み出したグルーヴは、ナイル・ロジャースも誇りに思うだろう。“All Of Us” と「愚か者たち」 (“Fools”) はこの10年の最高傑作に入る2曲だ。前述した通り、レミほど優れたロック曲を書ける者は他にいない。これらの曲がそのことを証明している。

しかし、レミのイマジネーションを捉えて書かれたネオサイケデリック系の曲が多すぎた。“Flowers”、“Love Is There”、“Looking For The Magic”も佳作だったが、この系統はすでに2017年のアルバムBIZARRE CARNIVALで出し尽くしている。ビートルズファンを公言するレミがビートルズの実験的なサイケ楽曲に敬意を表したかったのであろうことは理解できる。しかし“Strawberry Fields”の時代は結局のところ、ビートルズのキャリアにおいて短期間の道草に過ぎなかった。ザ・ホワイト・ストライプスの影響を受けた“TV Show”と同様、これらの曲はパスティーシュ、つまりオリジナル曲の模倣であった。

「2」

Walking On Fireでは、レミと寛貴はロックのルーツに立ち戻っている。心を揺さぶるすばらしいバラードも何曲か加わっている。 そして LOOKING FOR THE MAGICとは異なり、Walking On Fire はアルバムとして一貫性があるように聴こえる。出だしはファンキーなハードロックの短いインスト “Intro: Walkin On Fire” から始まる。1曲目の「東京は燃えてる」(“Tokyo Is On Fire”)はロックでありながらメロディアスな、アップビートな曲だ。レミは個人的なカオスのメタファーとして東京を歌う。語り手の心と同様に、東京は燃えているのだ。失望と希望が入り混じり、くすぶっている。たくさんの夢を追ってきたが、いまや灰となってしまった。言葉は詩的だが、感情は生々しい。

そう、これらの最新の曲は切望や物悲しさといった感情に溢れている。レミは世界に直面する若者の困難について歌うことも多い。絶対的な美しさの “By Myself Again” では、レミは「わたしはもう大人で 今日から一人で生きてゆく」と歌う。これまでもしてきたように、心に深く刻み込まれた思いを歌詞に書いている。彼女の世界は希望と失望が半々でできているように見える。

“AM06:30“「こんな夜更けは」(“Such A Late Night”)、「ストーリーの先に」(“At The End Of The Story”)等のバラードでは、メロディに合わせて心を揺さぶる歌詞を書くレミの才能が発揮されている。「若葉の時」(“The Time Of The Young Leaves”)の歌詞「丘の上 稲は揺れている」のように、レミは生活の中の喜びの瞬間を書くことが多い。しかし青春期の痛々しい経験を露にすることも避けては通らない。「ストーリーの先に」(“At The End Of The Story”)では、語り手は影だけを道連れに細い野道を歩いている。肩を叩く亡霊に惑わされず、月に見守られている。

「3」

レミは非常に詩的なロック歌詞を書く作詞家であることは間違いない。音楽の観点からは、レミと寛貴は印象に残るメロディを作り続けている。Walking On Fireは以前の作品ほどハードロックではない。 「ワイルド・サイドを行け」や「褒めろよ」等の速いテンポの名曲のようなパンクロック曲は含まれていない。しかし、二人は穏やかなバラードから小気味いいミッドテンポのロックまで幅広いジャンルをカバーしている。ソウルの雰囲気たっぷりの曲まで揃っている(シングル “Singing Now”)。“By Myself Again” では主な楽器としてバイオリンすら取り入れたカントリー風の曲だ。しかしそのメロディは、現在ナッシュビルで生まれているどんな曲よりもはるかに独創的だ。

「道化は吠える」(“The Clown Barks”)はアップテンポなハードロックだ。“Up To Me”ではどこかエキゾチックなリズムとキャッチ―な「Oh-oh-oh-oh oh-oh-oh oh-oh-oh-oh-oh」のコーラスを取り入れている。GLIM SPANKYのレパートリーの中でまったく新しい作風の筆頭となるこの曲は、リスナーの印象にもいちばん長く残る曲かもしれない。

締めの曲 “Circle Of Time” は同アルバムで最もネオサイケデリックに近い曲だろう。しかし、BIZARRE CARNIVALLOOKING FOR THE MAGICの曲よりも純粋なロック感がある。

「4」

同アルバムの12曲は音楽的にかなり広範囲をカバーしている。レミのクラシックロックンロールの声はいつも通り、感情とニュアンスに溢れている。 寛貴は博学な世界サッカーファンだが、クラシックブルーズロックギターのリックについてはさらに造詣が深い。寛貴のソロは鷲のように空高く舞い、傷ついた恋人のように泣く。Walking On Fireでは、ワウペダルを巧みに使っている。

Walking On Fire は、Sunrise JourneyNext One といったGLIM SPANKYの初期アルバムほどの高みには到達しないかもしれない。理由はシンプルで、このアルバムにはもっとメロウな雰囲気があり、それゆえ純然たるハイがより少ないということだ。それでも、Walking On Fire は熟達の域に達した GLIM SPANKYのクラシックロックの作風、ビートルズやローリングストーンズの影響が浸み込んだスタイルを再確認できる作品となっている。GLIM SPANKYの新譜は、出るたびに聴く興奮が味わえる。Walking On Fire は真に偉大なロックバンドの作品コレクションに加わる価値ある1枚だ。

 

ページ最上部の「English」をクリックすると、本記事の英語版を閲覧できます。

Click “English” at the top of the page for the English language version of this article.

Written by

1 Comment
  • ムッシュ松尾 より:

    素敵な文をありがとうございます。レミの父ですがその通りだと思います。私が言うのはあれなので。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です