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LOVEBITES:asamiのバレエのようなエレガンス
LOVEBITES:asamiのバレエのようなエレガンス
asamiが持って生まれたエレガンスを最も端的に見られるのが、DVDで入手可能な2020年9月10日のライブストリーム『Awake Again: Live From Abyss』でのパフォーマンスだ。リハーサルスタジオという手狭な空間にも関わらず、asamiはアルゼンチンのタンゴの踊り手のような洗練された動き、ピナ・バウシュが振り付けたバレリーナのような表現豊かな動きを見せてくれる。
しかし、asamiの真価はその身のこなしではなく、その歌声にある。
asamiの歌声は典型的なメゾソプラノだ。彼女にはソプラノの高音域はないが、必要な時には簡単にアルトの低音域まで下げることができる。asamiは、オペラ、ポップ、ジャズ、リズム、そしてブルースなど、歌いたいものを何でも歌うことができるだろう。彼女がメタルから離れる日が来れば、思いのままに次のジャンルを選べるはずだ。
彼女の歌声は、特にジャズ向きだ。彼女が典型的なサラ・ヴォーンのジャズスタンダート、例えば「Solitude」や「Vanity」を歌っている姿を容易に想像できる。単にasamiがそれに適した歌声の持ち主であることに加えて、彼女には失恋の感覚を想起させる並外れた能力があるからだ。LOVEBITESの楽曲「Edge Of The World」は、彼女がいかに声に変化をつけて後悔、悲嘆、そして恋しみを表現できるかを示す好例だ。こうした能力は、前述のサラ・ヴォーンの楽曲やエラ・フィッツジェラルドの「You’re My Thrill」または「Stella By Starlight」を歌うのにぴったりのはずだ。
asamiはまた、歌声を精確にコントロールできる。多くのメタルシンガーは、感情を伝える手段として、ビブラートを多用しすぎるという残念な傾向に陥っている。オペラの世界では、コントロールの効いたビブラートと声の不安定な「揺れ」との違いは紙一重であるが、後者は歌い手が声のコントロールを失ったことを示す心配な兆候だ。asamiは、音符を一般的に想定されるより伸ばしたり、歌いにくくなるほど伸ばした際でも、ビブラートの落とし穴にはまることが決してない。
DVD『Battle In The East』収録の「The Apocalypse」で彼女が最後に歌う音符に耳を傾けてほしい。4分を超えて衰えることなくメタルを炸裂させてからでも、彼女はこの楽曲の最高音を10秒以上も澄んだ歌声で伸ばすことができるのだ。この離れ業を、彼女はどの楽曲でも、どの公演でもやってのける。
asamiは大抵、胸声を使う。ヘビーメタルのボーカルの場合、パワーを出せるのは胸声だからだ。彼女の胸声は徐々に強さを増してきた。LOVEBITESのその後の作品に慣れると、処女作「The Lovebites EP」のasamiはどこか完成形ではなく、聴くと幾分か不自然に感じられる。今のasamiは、夜の闇の中を走る貨物列車の轟音のような、喉を隅々まで鳴らした歌声を披露できる。
彼女の身体的スタミナも、徐々に上がってきたようだ。LOVEBITESの初のライブリリース『Battle In The East』の1回目のMCブレイクの際には、asamiは息が上がってほとんど喘いぎながら観客に話しかけているようだ。この体力のかすかな不安要素は、その後のライブリリースでは一切見られない。
しかし、asamiはゴージャスな頭声の持ち主でもある。頭声を使う彼女は、美しく澄んだ歌声を聴かせてくれる。この例として、「Rising」のCメロで「…almost like we’ve been left by ourselves/I’m alone, you’re alone, somewhere in the world(…ほとんど私たちだけで取り残されたみたい/私は独り、あなたも独り、世界のどこかで)」と歌う部分が挙げられる。
もう1ヶ所asamiの頭声が聴けるところとして、『Daughters Of The Dawn』の「Empty Daydream」のイントロがある。このイントロはスタジオバージョンにはなく、スタジオバージョンはヘビーなメインリフから開始する。ライブバージョンでは、ギターのmiyakoがまずは優しく、その後燃えるようなピアノイントロを演奏する。asamiは歌詞なしでゴージャスな歌声をいくらか響かせ、その後サビの歌詞を一部引用して「just let me go away, just let me go my way, so I can…(私を自由にして、自分の好きにさせて。そうすれば…)」と歌う。
『Daughters』では、このフレーズを歌う彼女の目には感情が溢れている。しかし彼女は、「go on(前に進めるから)」という続きの歌詞を期待させながら、この部分を歌わない。その代わりに、メインのリフが開始する。これは素晴らしいアレンジであるだけではなく、asamiはほとんどどんなジャンルのどんな楽曲を選んでも歌えるであろうほどの美しい歌声の持ち主であることに聴き手が気付く瞬間の1つでもある。
LOVEBITESのライブは、いくつかの面で、細部まで振り付けられた東京バレエ団の公演に似ている。しかし別の面では、LOVEBITESのパフォーマンスは3つのリングで同時に行われるサーカスを観ているかのようだ。そして、どのサーカス団にも才能豊かで集中力があって注目の的となるリングリーダーがいる。LOVEBITESでその役回りを引き受けるのがasamiなのだ。asamiはその役回りを完璧に演じている。
サーカスのリングマスターと同じように、asamiは聴衆の熱量を一心に上げていく。 『 Crusaders Standing At Wacken』収録の「Hammer of Wrath」のメインリフの開始時に彼女が叫ぶ「Go!」以上に完璧なライブの始め方は想像できない。2020年のライブDVD『Five Of A Kind』では、その「Go!」は言葉にすらならない「Raaawr」に変化している。この瞬間のasamiの声を喩えるとすれば、機嫌の悪いライオンの唸り声としか言いようがない。もちろん、これほど野生的な形で感情がむきだされるのを耳にすることはスリル満点でもある。面白いことに、ライブでは、バンドメンバーの中でasamiのみが、LOVEBITESのほとんどの楽曲の残酷なほどの高速テンポに遅れをとることがある。しかしこれは批判ではない。LOVEBITESの全ての楽曲は歌詞が英語で、asamiは完璧に英語で歌いこなしている。しかしテンポが容赦なく高速であることから、asamiは音節を短く省略しなければならないことがしばしばあるのだ。
しかしそれによって、パフォーマンスの質が落ちて感じられることはない。なぜなら彼女はいつでもアクティブで聴衆の注目を集めるフロントウーマンだからだ。むしろ、彼女が歌詞を省略しなければならない状況は、パフォーマンスをより興奮に満ちたものにしてくれている。さらに彼女には、時折1音節の単語を2音節や3音節に引き延ばすというチャーミングな癖がある。例えば、『Five Of A Kind』収録の「Don’t Bite the Dust」の「bite the du-ust(砂を噛む)」や「ghost of a cha-a-ance(失ったチャンスの亡霊)」などだ。asamiは疑いなくアラバマに行ったことはないだろうが、もしクリムゾン・タイドの本拠地(スティーリー・ダンの定番曲「Deacon Blues」では「they got a name for the winners of the world…they call Alabama the Crimson Tide(アラバマ大アメフトチームは世界の覇者にふさわしく「クリムゾン・タイド」と呼ばれている)」と歌われている)を彼女が訪れることがあれば、彼女はかなり早いうちに母音を引き延ばす典型的な南部訛りを習得できるだろう。
asamiはまた、どこまでも激しい身体表現が特徴だ。『Daughters』収録の「The Crusade」の器楽間奏の開始時には、asamiは拳を空に激しく突き上げ始める。midoriがソロの演奏を始める時には、asamiは平然とmiyakoの方に歩いていき、肘をmiyakoの肩に乗せてmiyakoに一瞬笑いかける。普段はストイックなmiyakoだが、それを見ると心から愛情のこもった笑いを見せてくれる。一瞬のことではあるが、微笑ましい。バンドメンバーが心から互いを好いている姿は、いつでも満足感を感じさせてくれるものだ。
ライブDVDには、このようにasamiとmiyakoの絆が感じられる一瞬など、楽しませてくれる瞬間がたくさんある。『Daughters Of The Dawn』収録の「Scream For Me」のあるところでは、asamiとmidoriが背中合わせで定番のロックスターのポーズを見せてくれる。2人が別々の方向に歩き出すと、2人の足がどういうわけか絡み合ってしまい、midoriがつまずく。これを見たasamiは一瞬笑ってしまい、彼女は歌い続けるがその歌声は一瞬調子を外してしまう。DVDのプロデューサーがこうした人間らしい瞬間をファンに見せてくれるのは素敵なことだ。
挙げればいくらでも挙げられるだろう。しかし、『Five Of A Kind』収録の「Don’t Bite The Dust」冒頭のある程度控えめの「thank you for coming tonight(今夜来てくれてありがとう)」だけでも、彼女が聴衆の心をつかむことに長けていることがうかがえる。
asamiは天才的歌手、説得力のあるパフォーマーというだけではなく、才能ある作詞家でもある。イギリスやアメリカのヘビーメタルバンドの歌詞には笑ってしまうほど粗末なものもあるので、英語で歌うことを選ぶ日本のヘビーメタルバンドから素晴らしい歌詞を聴けるのは本当に驚くべきことだ。asamiの英語は常に完璧というわけではないが、説得力のあるイメージを提示する能力はあり、それは「Addicted」にも見て取れる。
The city lights and the neon signs(街明かりやネオンサインは)
Are always so delusional(どれも大きな惑わし。)
They lure me like a Venus fly(ハエトリソウの捕虫葉のように)
Deranging me into its trap.(私をおびき寄せる。)
ドラマーのharunaの崇高で洗練されて目を見張る「Bravehearted」のためにasamiが書いた英語の歌詞からは、失望を前に血まみれになっても屈しないというasamiの力強さがうかがえる。
Don’t turn your back, no don’t make it pretend(背を向けて背中に嘘をつかせないで。)
Fight through the pain until you’ve reached the end(最後まで苦痛の中戦い続けて。)
Though dark and bloody, have no worries(暗い中でも血まみれの中でも心配しないで。)
There will be redemption(救いは必ずやってくる)
Finally when the skies rise over you(ついにあなたの頭上に空が開けたら、)
Triumph will be in your heart shining through(あなたの心には勝利の明かりがさす。)
Forever guiding the way into the light.(いつまでも光の方向を示してくれる明かりが。)
asamiは、恋人に飽き飽きして満足できない女性のメッセージを歌詞にすることもできる。警告射撃というぴったりの曲名を冠した「Warning Shot」の歌詞はこうだ。
Hey, I see you’re still fooling around, won’t you wake up?(ヘイ、まだダラダラしているみたいだけれど、目を覚まさないの?)
Can’t believe you still think that someone’s gonna help you(誰かが助けてくれるといまだに思っているなんて信じられない。)
Making excuses, it’s useless so shut your big mouth, yeah(言い訳を言っても無駄だからビッグマウスは閉じておいて、yeah。)
None of that bluffing will help you no matter where you go(どこに行ってもそんな嘘はどれも通用しないから。)
Jealous but scared, you’re far from prepared(君は嫉妬しつつも恐れている、準備万端には程遠い。)
You better think twice darling(ダーリン、よく考えたほうがいいよ。)
Why would I be sorry for you, you’re lame and untrue(嘘つきでつまらない君を私が気の毒に思うはずがある?)
It’s time you accept who you are so you can go.(身の程を知って去るべき頃だよ。)
asamiがこの、言うなればろくでなしの男に向ける嘲りには容赦がない。BAND-MAIDの小鳩ミクと彩姫の嘲りのレベルには届かないにしろ、それに近いものがある。
LOVEBITESのスタジオリリースはどれも、価値ある芸術作品だ。しかしLOVEBITESは、ブルーレイ、DVD、またはCDであってもライブにおいて初めて真髄を楽しむことができるバンドだ。その最大の理由は、asamiのパフォーマンスだ。asamiは、楽曲の基本的な構造はオリジナル録音のバージョンからそれほど変わらないのに、それぞれの楽曲に異次元の強烈さと熱気を加えてくれるのだ。
繰り返しになるが、ライブリハーサルスタジオDVD『Awake Again』はasamiのアーティストとしての中核的な適性をうかがわせる好例だ。バンド仲間とカメラ担当者以外に聴衆はいない。それでもasamiは、力強いパフォーマンスを披露してくれるのだ。器楽間奏の間、彼女はリングに戻るのを待っているプロボクサーのような表情をしている。肩の関節を鳴らし、深呼吸し、そしてしばしばバンド仲間の超絶技巧に驚異の表情を見せながら、どんちゃん騒ぎに飛び込んで戻るタイミングを待っているのだ。そしてリングに戻ると、彼女は一切躊躇なく楽曲に襲いかかる。
結論を言おう。asamiをして真に特別なアーティストたらしめているのは、彼女の澄んだ歌声、彼女がパフォーマンス時に見せてくれる本能的に持つ興奮感と優雅さ、そして彼女の作詞家としてのストレートかつ絶妙な言葉選びだ。 日本のロックやメタルには多くの素晴らしい女性の歌手がいて、ランキングをつけるのは不可能だ。それでも、asamiがその最上層で殿堂入りできる少数に属していることに疑いはない。
註
日本の全ての素晴らしいロックやメタルのバンドの中で、LOVEBITESは最も何度も聴くに値するバンドであるようだ。聴き返すごとに、全体の鑑賞体験が損なわれることなく、驚嘆に値する新たな細部の芸が露わになる。今後の記事では、LOVEBITESのその他の側面、例えばそれぞれ極めて秀でたアーティストであるharuna、miho、miyako、そしてmidoriの貢献などに関して紹介していく。
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