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LOVEBITES:miyakoの天賦の才
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LOVEBITESのギタリストmiyakoが作曲する楽曲からは、さざ波のようでありつつ噴火する火山のようでもある音符が流れてくる。モーツァルトの『フィガロの結婚』の序曲から上原ひろみの「In A Trance」を通ってmiyako自身の「When Destinies Align」までが、同じ音楽の系譜上にあるのだ。
そんなことは馬鹿げていると言う前に、これら3曲の構造を考えてみてほしい。いずれも冒頭から説得力がある。しかし、その心踊る冒頭の主題は、その後爆発することになる大混乱の序章に過ぎないのだ。
これらの作品を作曲したモーツァルトも、上原ひろみも、miyakoも、面白みのある主題要素で聴き手をじらしてくる。その後、本物の花火大会が始まる。これら3曲いずれを聴いても、曲想が目まぐるしく変化していくことの驚きから途方もない快感が得られる。これら3人の作曲家は、聴き手の関心をひくための真の極意を理解し、またそれを表現するだけの深い職人芸を見せてくれているのだ。
miyakoは数多くの戦略を駆使して、音色豊かな音響のパレットを作り上げていく。「Rising」や「Shadowmaker」などの楽曲は、ギターデュオによるイントロで始まる。こうした好戦的なイントロは、楽曲が爆発するかのようにメインの主題に突進することを予感させる、軍の招集のラッパのように機能している。
また、「Mastermind 01」のような楽曲では、いきなりサクッとしたギターリフが始まる。しかしこのリフは形を変え、複雑さを増していき、その後asamiが歌い始める。「Empty Daydream」のようにかなりシンプルなイントロのギターパートにも、和声的に解決する前に4度の下行音形が使われている。こうした細かい芸によって演奏に複雑性が生まれるのだが、さらに重要なことに、リフや楽曲全体がより面白くなるのだ。
miyakoの楽曲には、何よりも本当の意味で歌と言えるような、しっかりとしたメロディーの基礎がある。miyakoは明らかにヘビーメタルのリズムの世界に源流があるサクッとしたリフを書くが、彼女には深いロマンチシズムの傾向もあるのだ。「Break The Wall」における彼女の驚くほど美しいソロは、タイムマシンに乗せてピョートル・チャイコフスキーに送れば、1つも音符を変えることなく「ノクターンニ短調」に組み入れてもおかしくないものだ。
miyakoが強いロマンチシズムの傾向を見せるのは、LOVEBITESのバラードやスローセクションのみではない。「Rising」のようなハードでエネルギッシュな楽曲にも見受けられるのだ。 miyakoとmidoriがバトルするかのようなギターセクションの終盤のデュオは極めて情熱的で、ロシアのロマン派の精髄であるアレクサンドル・グラズノフのピアノソナタを思わせるほどだ。miyakoは「Above The Black Sea」の冒頭にギターソロを配しているが、これはモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』においてドンナ・エルヴィーラが歌うレチタティーヴォ「何というふしだらな」と同じように機能する。不吉な前兆に満ちたラメントなのだ。しかし、少なくとも歌詞の上では、レチタティーヴォに続くアリア「あの恩知らずは私を裏切った」でも「Above The Black Sea」のメインセクションでも、結局何も不吉なことは起こらない。
ヘビーメタルバンドのギタリストはしばしば、楽曲のサビにおいては、休憩のためにパワーコードを引き延ばして演奏する。これは戦略としては受け入れられるものだ。しかし、LOVEBITESはこの戦略をほとんど用いない。用いる際には、miyakoとmidoriはこうした「ゆっくりの」パワーコードを利用して、ドラマを生み出したり、曲想の変化または楽曲の特定のセクションを強調したりする。その例が、「Rising」のAメロの1番だ。
しかしそれより、miyakoとmidoriは、もっと他のトリックを使う。どれも、かなりの努力が必要で、それ以上に集中力も必要になるトリックだ。しばしば、ボーカルセクションに重ねるように、ハードでエネルギッシュな主題のリフを演奏する。こうしたリフはほぼ常に疾走感を帯び、それは一斉に駆けていく馬の群れのよう、もしくは暴走する蒸気機関車のようだ。また別の時には、ボーカルセクションにおける伴奏の演奏を複雑なソロパートの要素で構成しているので、しばしばコントロールを失う寸前ではないかと思われることもある。
ギター演奏の面では、miyakoとmidoriは特定の要素の演奏法が異なるので聴き分けることができる。前者の特徴は、ピンチハーモニクスとスタッカートの音階だ。楽曲においてワウペダルが必要になる場面では、miyakoがほぼ常に演奏を任される。さらに重要なこととして、miyakoのソロは主題提示、展開、そして解決と、より構造だっている傾向があるのに対して、midoriのソロはほぼ常に野性味に溢れて予測不能だ。miyakoのソロの構造は、彼女のレベルまで伝統的なクラシック音楽の教育を受けた人物が書きそうな構造だ。さらに重要なことに、miyakoとmidoriのスタイルの違いは、LOVEBITESの数多くの醍醐味の1つだ。2人は真の意味で、互恵的な共生関係にあるのだ。
しかし、このように一般化して物を語ることには常に危険が伴う。なぜなら常に例外があるからだ。miyakoが『Five Of A Kind』収録の「Thunder Vengeance」の終盤で披露するワウペダルを駆使したソロは凶暴かつ万華鏡のようだ。次にmiyakoが何をするのか、聴き手には全くわからないのだ。 miyakoの最後の叫ぶような音符で楽曲を締めくくるというところに、バンドのセンスの良さが出ている。なぜなら、彼女が聞かせてくれたばかりの音楽の興奮度合いをさらに上回ることなど不可能だからだ。
演奏家として、miyakoはステージ上では比較的自制的だ。これは部分的には、高速でこれほど複雑なパートを演奏するにはかなりの集中力が求められるからだ。「Raise Some Hell」での彼女のソロにおいては、彼女はバス停で本を読みながらバスを待っている人かと思うくらい、ほとんど感情を見せない。しかし、そのソロが終わると、彼女はasamiの方に偽りない笑顔で寄っていく。なぜなら、言い古された表現ではあるが、場外ホームラン級の演奏をやってのけたことがわかっているからだ。何事にも例外があるように、この傾向にも例外はある。miyakoは『Crusaders Standing At Wacken』収録の「Shadowmaker」においては、mihoとmidoriと一緒に躊躇なく頭を振り回している。
miyakoは無表情に見えるが、彼女は極めて魂を込めて演奏するギタリストだ。彼女はしばしば極めて強引なチョーキング、スタッカートの音階、およびピッチハーモニクスを取り入れ、自身のソロをより感情に訴えかけるものにしている。「Break The Wall」における彼女のソロは、ブルーズ史上屈指の演奏に数えられる『Live In Chicago』収録の「Cherry Red Wine」におけるルーサー・アリスンの演奏と同じくらい情熱に満ちている。さらに彼女はゴールドトップのレスポールで「Break The Wall」のソロを演奏しているが、この楽器はルーサーが自身の代表格のアルバム『Reckless』のカバー写真で演奏している楽器に近い。miyakoはルーサーが見せるのと同じレックレスな奔放ぶりを、数多くのソロ演奏の中で見せてくれる。
miyakoにはピアノ演奏の才能もある。一部のキーボードパートは明らかに事前録音されているものではあるが、miyakoはしばしばステージ上でピアノの前に移動してピアノを弾き始める。『Five』収録の例としては、「Rising」と「Edge Of The World」が挙げられる。さらに驚異的なことに、『Battle In The East』の「Burden of Time」においては、先述のジャズピアニスト上原ひろみが演奏していても全く違和感がないような野性味に溢れるユニークなピアノパートを、miyakoは演奏している。それに、miyakoはこのジャズ風のリフを右手で弾きながら、左手ではパワーコードを唸らせ続けているのだ。
ライブアルバム『Invitation To The Theatre』では、miyakoがセルゲイ・ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番ハ短調」の冒頭の主題を演奏するというスリル満点のシーンを楽しめる。『Five of a Kind』では、miyakoは楽々フレデリック・ショパンの中でも屈指の難易度を誇る「革命のエチュード」(Op.10、No.12)を演奏している。革命の左手のアルベジオは冗談ではない。あのアルペジオをこれほどの自信とパワーを持って演奏できるピアノ奏者は、勇敢であるだけではなく才能に恵まれている。
miyakoはソングライターとしても進化している。LOVEBITESの最新の2枚のEPには、miyakoのこれまでの試みとは全く異なる楽曲が1曲ずつ収録されている。『GOLDEN DESTINATION』収録の「Puppet On A String」においては、楽曲全体をドラマチックな緊張感が通底していることが特筆に値する。器楽セクションの上昇していくピッチは、信じられないかもしれないが、キング・クリムゾンがアルバム『Red』収録の代表曲「Starless」で使った類似の戦略を思わせるものだ。miyakoはもちろんロバート・フリップほど長く緊張感を上昇させ続けているわけではないが、このテクニックには同じく聴き手を釘付けにする効果がある。
新作の『GLORY, GLORY TO THE WORLD』収録の「NO TIME TO HESITATE」には、これまでmiyakoが作曲したどの楽曲とも異なる、焼け付くような残忍性がある。midoriとmiyakoのギターソロは完全な錯乱状態にある。どういうわけか、これら2人のギタリストはギターデュオのセクションでこのカオス状態を制御下に戻すことに成功している。残念ながら、これらの2曲に関しては、ライブ演奏は(まだ)ない。
ちなみに、「NO TIME TO HESITATE」においては、asamiもこれまでとは全く異なるパフォーマンスを披露している。「歌」と「ボーカル」の間には大きな違いがある。「歌」は従来からの歌唱法やメロディーに少なくとも部分的には従っていることを暗に示すのに対して、「ボーカル」はコントロールが効く範囲を超えたあらゆるものを含むことができる。asamiは真に、世界屈指の見事なボーカルだ。彼女は完璧にコントロールを保って歌いつつ。asamiは「NO TIME TO HESITATE」では実際のところ歌を披露しているのではなく、そのボーカルを用いて極めて衝撃的なパフォーマンスを見せてくれているのだ。 asamiさん、どうやってやりましたか?
また、asamiがmiyakoのソングライティングのパートナーとして、miyakoの曲に歌詞を提供していることも指摘しておきたい。本記事では徹底的に、破綻するギリギリまでクラシック音楽を引き合いに出しているので、その流れに乗ってリヒャルト・シュトラウスなどが投げかけた問いを提示したい。「音楽が先か、詞が先か」と。
miyakoを最高に楽しめるのは、ライブDVDの鑑賞においてだ。彼女のミスのないスウィープピッキングやピンポイント的なタッピング、それに正確なチョーキングや稲妻のように高速なオルタネートピッキング、そして彼女の非の打ち所のないレガートを観れば、驚いて当然だ。さらにしばしば、彼女はこれらの技法全てを1つの短いソロの中で披露してくれる。もちろん、同じことはmidoriの演奏技術に関しても言うことができるし、彼女については今後の記事で紹介したい。
さらに、DVDでは、LOVEBITESの縁の下の力持ち的な第6のメンバーの存在感が強い。それは狂乱する聴衆だ。ボーカルのasamiの愛くるしい指揮のもと、asamiが頼めば聴衆は歌ったり、促されれば拳を突き上げたりしてくれる。本当に楽しそうだ。
クラシック音楽からジャズを経由してヘビーメタルに至る道のりには、多くの回り道やフライング、そして行き止まりがある。miyakoの作曲、アレンジ、およびギター演奏はどれも、この脈々と受け継がれてきた音楽の系譜に位置付けられる要素を含んでいる。しかし、分析の結論としては、どの要素もLOVEBITESならではであり、このバンドが演奏するのはヘビーメタルなのだ。「Break The Wall」の1回目の器楽間奏など、Slipknotの残響が聞こえるように思われる箇所はあっても、モーツァルトや上原ひろみの残響が聞こえるように思われる箇所はそれほど多くないだろう。
そしてもちろん、LOVEBITESの楽曲は、その細かい詳細を分析しなくても大好きになれる。全体はその部分の総和に勝るのだ。そしてLOVEBITESの全体は見事で息をのむものだ。
miyakoはLOVEBITESには欠かせない存在だ。彼女が、ヘビーメタルの先輩を含めて、過去の巨匠たちからの学びを吸収してきたことに疑いはない。彼女が自身の音楽の要素にどれほど注意を払っているかを見れば、アーティストとしての繊細かつ適切な感受性の持ち主であることがわかる。しかし、miyakoには単なる職人芸を遥かに超える何かがある。
miyakoには天賦の才の持ち主としての一面があるのだ。 それは単に、実に説得力のあるメタルリフ、忘れられないメロディー主題、巧みな楽曲構造、そして極めて恵まれたギターの演奏技術など、極めて多くのアーティストとしての強みを見せてくれるからだけではない。何よりも、miyakoが既に達人の域に達しているこれらの全ての分野で、常にさらなる新境地を切り拓こうとしているからなのだ。彼女のクリエイティビティーの根本にあるベクトルは、常に前進を求めている。そして、彼女やLOVEBITESでの彼女のバンド仲間は、誰しも超えられないはずのヴォルフガング・アマデウスにあと少しで匹敵するほど、多作なアーティストであるということも付け加えておこう。
miyako、誕生日おめでとう。
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