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SCANDAL IN THE HOUSE: SCANDALのコンサート(ニューヨーク ソニーホール 2022年7月11日) レビュー
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「1」
伝説のバンドSCANDALが卓越したバンドであることは、7月11日のニューヨーク ソニーホールでのコンサートで演奏された楽曲で証明された。バンドはまるで曲中に飛び込むようにTOMOMIの 「愛の正体(Love’s True Colors) 」を演奏。アルバム『MIRROR』のこの曲は合唱の歌声に支えられた堂々たるマーチなのだが、今回バンドはこの曲にマニアックなエネルギーを注ぎ込んだ。SCANDALは「愛の正体」を、うだるように蒸し暑いまるで温室のようなアラバマのテント集会で聴くのにふさわしい、熱烈なゴスペルソングに変貌させたのである。
その迫力は、90分間のステージを通して全く変わらなかった。RINAの 「彼女はWave(She is A Wave)」 では、4人の奏者が情熱的な確信を持って曲に没入し、ファンキーだが抑制の利いたこのアルバムトラックを圧倒的かつサイケデリックな狂宴を思わせる一曲に変貌させた。
「2」
SCANDALのライブの実力は、ブルーレイやDVDで十分に証明されている。それでもやはり、生で観たときの臨場感、インパクト、親近感は何物にも代えがたい。HARUNAは磨き抜かれたリードシンガーである。何度か英語で観客に語りかけ、それから日本語で話してもいいですか?と訊いた。大丈夫だよ、との反応がたくさん返ってきたので彼女は日本語に切り替えて、アルバム『Kiss from the darkness』のツアーができなかったので再びツアーができて本当に嬉しい、と伝えた。
彼女のみならず 4人のメンバー全員が、最初の一音から最後の一音にいたるまで観客を魅了する。TOMOMIは、ある観客の携帯電話を奪って、演奏中の自分とMAMIを撮影。これでこの観客の人生はパーフェクトなものになった。RINAは、ライブ中ずっとドラムセットの向こうにいるにもかかわらず、キラキラした個性を見せ続ける。
「3」
ギタリストMAMIは、実に魅惑的なパフォーマーだ。飛び跳ねたり、両手で観客にハートサインを送ったり、ステージの隅々まで走り回ったりしながら、リズムとリードの自分のパートを難なくこなす。幅広いSCANDALのレパートリーの中でも最高の楽曲の一つMAMIの素晴らしい「声(Voice)」が演奏されなかったのは、少々残念だった。MAMIはしかし、自身が作詞作曲を手がけた情感豊かな新曲「アイボリー」を歌った。彼女は切ない憧れの気持ちをこの曲に込めた。
ふわりふわり ぼやけた視界で
探って探って 僕も手探りだよ
ゆらりゆらり 揺れる感情で
もどかしく楽しく 生きてる
「4」
今回のコンサートでSCANDALは、パワーあふれるポップソングとミドルテンポのバラードをバランスよく配置した。SCANDALのハードロック色の強い曲を聴くと、しばしばカオスの淵に立たされているような気分になる。コンサートでは、この狂騒の感覚がより一層際立つ。4人は、大作アニメ『鋼の錬金術師:Brotherhood』の歴代4曲目のエンディングテーマ「瞬間センチメンタル」を、オリジナルバージョンよりも1分あたり数拍早く演奏した。この曲と同様、終盤に演奏された「A.M.D.K.J.」、アンコール1曲目の「マスターピース」も、まるで無秩序な修羅場のような雰囲気を纏っていた。どちらもハードロック中心のアルバム『Kiss from the darkness』(2020年)の収録曲である。バンドは、同アルバムに収録されているワイルドでカオティックな「最終兵器、君」も、アルバムバージョンよりさらに激しく演奏した。
「5」
SCANDALの『MIRROR』以前の3枚のアルバム、『Kiss from the darkness』(2020)、『HONEY』(2018)、『YELLOW』(2016)は、いずれも完成度の高いものだった。これらのアルバムの中核をなすのは、ハードロック色の強い楽曲であり、リスナーはアルバムを耳にするなりインパクトを感じた。
これに対しMIRRORは聴く人に忍び寄ってくるようなアルバムだ。初めて聴くと、それ以前のアルバムに比べバラードに大きな比重が置かれているように感じる。ただ完全なロック「SPICE」がボーナストラックとしてアルバムの最後に収録されており、この曲が腹に猛烈なパンチを食らわせてMIRRORを締めくくっている。
「SPICE」の前に入っている楽曲の多くは、バラードやミドルテンポの曲である。前述の「彼女はWave」や「愛の正体」などは、全体的にのどかな雰囲気で、聴く人に一息つかせる。しかし、繰り返し聴くうちに、リスナーはMIRRORは素晴らしい傑作であるとの結論にたどりつく。それは、楽曲がそろって堂々とその存在を主張しているからだ。SCANDALのほとんどのアルバムには、少なくとも1曲は埋め草的な楽曲が入っているが、MIRRORは違う。MIRRORでは全楽曲が、アルバムの一貫したコンセプトに寄与しているのだ。
「6」
ニューヨーク公演でSCANDALは、通常盤『MIRROR』の10曲中8曲を演奏した。SCANDALほど豊かな経歴を持つバンドで、最新作にここまでフォーカスする自信のあるバンドはそう多くない。例えば、Slipknotは『WE ARE NOT YOUR KIND』(2019年のアルバム)ツアーのほとんどの回で、この素晴らしいアルバムのフル楽曲11曲のうち3曲しか演奏しなかった。
2021年に結成15周年を迎えたSCANDALは、ガールズバンド隆盛の第一波を構成するグループとしてここ10年ほどの音楽シーンに多大な影響を及ぼしてきた。目まぐるしくメンバーが入れ替わってきたことで知られる同時代のDESTROSEと違って、SCANDALは結成以来ずっとメンバーが変わっていない。その結果ステージ上の彼女らは、長年一緒にツアーをしてきたことによって醸し出される寛いだ雰囲気を漂わせている。メンバーはまた、4人の間に生ずる本物のケミストリーを披露する。4人がお互い同士の、そして観客との交流に感じている喜びに嘘はない。
「7」
SCANDALは、BAND-MAIDと同じく、メンバーが自分たちで曲を作り始めてから、クオリティが飛躍的に向上したバンドのひとつだ。バンドの楽曲の大部分、特に最もハードなパワーポップロックの曲については、作詞作曲チームMAMIとRINAが担当しているとはいえ、どのメンバーも質の高い楽曲を提供している。その結果多様性豊かな音楽がリスナーに届けられている。例えば、『Kiss from the darkness』に収録されているHARUNAの「NEON TOWN ESCAPE」は、MAMIとRINAが作った楽曲とは明らかに違うクールなバイブスを備えている。
特にTOMOMIは、ソングライターとして著しい成長を見せており、かつての「今夜はピザパーティー 」や 「ランドリーランドリー 」のようなバブルガムポップから「愛の正体」 や 「Living in the city」のようなより成熟した楽曲にシフトいる。この2曲は『MIRROR』の中でも特に際立っている。
「8」
悲しいことに、2022年のアメリカツアーは、バンドメンバーとそのサポートチームの多くが陰険な新型コロナウィルスにやられたため、中断を余儀なくされた。感染者、特にバンドメンバーの女性たちの一日も早い回復を願うばかりである。
トロント、ニューヨーク、ボストン、アトランタでSCANDALの公演を見られたラッキーなファンは、驚くことに未だにパワーの全盛期にあるバンドを見たことになる。時間とともにスローダウンしがちなバンドが多い中、SCANDALは、スタジオでもコンサートのステージでも、まだまだパワー全開で燃えている。SCANDALは、ジャンルを超越した、日本のロックバンドの真の金字塔だ。
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図 @nroe9 (Insta)
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