Now reading

GACHARIC SPIN/DOLL$BOXX/BAND-MAID プログレッシブメタルジャズファンクの名手F チョッパー KOGAとMISA!MISA!MISA!

GACHARIC SPIN/DOLL$BOXX/BAND-MAID プログレッシブメタルジャズファンクの名手F チョッパー KOGAとMISA!MISA!MISA! - Raijin Rock
GACHARIC SPIN/DOLL$BOXX/BAND-MAID プログレッシブメタルジャズファンクの名手F チョッパー KOGAとMISA!MISA!MISA!

音楽教本『Dictionary of Bass Grooves(ベースグルーヴ集)』には、30を超えるベース演奏のテクニックが挙げられている。この教本には、カントリーロック、モータウン、レゲエ、そしてパンクロックなどの課題曲が収録されている。しかし、そのどの1つの十分当てはまらない、ユニークなハイブリッドスタイルの演奏を披露してくれるベーシストがいる。それがBAND-MAIDのMISA、そしてGacharic SpinとDOLL$BOXXの「F チョッパー KOGA」(古賀美智子)だ。

この2人の超絶技巧的なアプローチを最も適切に表現するなら、「プログレッシブメタルジャズファンク」となるのではないだろうか。表現を変えるとすると、「オルタナティブとパンクロックの融合」とも言えるかもしれない。どう呼ぶにしても意図は伝わっているだろう。軽々とジャンルを越境する2人は、世界屈指のエキサイティングでクリエイティブなベーシストだ。そしてMISAとKOGAは共通して、催眠術のようなファンキーなアプローチでハードロックに取り組んでいる。

「1」

MISAは、「嘘みたいにハードロッキングなメイドのバンド」と呼ばれるBAND-MAIDのベーシストだ。世界征服という目標に向かって着々と前進しているBAND-MAIDは、ゴージャスなバラードもレパートリーとしているが、その真髄は何にも抑制されないアグレッシブな表現だ。2021年のBAND-MAIDのアルバム『Unseen World』で極めて独自の視点から描かれる世界は、ボブ・ディランの『Blood On the Tracks』と同様に、残酷でありながらも一貫性がある。

KOGAの最も広く知られた肩書きは、Gacharic Spinのベーシストとしてのものだ。このバンドは一言で言い表すのが難しく、ジャンルはパワフルかつノリノリのパワー/ラップ/ダンス/ロックと多彩だ。最新作のアルバム『Gold Dash』(2020)は、このジャンルにおける傑作である。このジャンルで活動しているのはGacharic Spinのみであるとしても。

「2」

さらにKOGAは、その他Gacharic Spinの3人のコアメンバーと、スーパーグループDOLL$BOXXにも参加している。DOLL$BOXXでボーカルを務めるのは、読者各位にとって(そして筆者にとって)メタルの女神である、Unlucky Morpheusの超越的ボーカル天外冬黄(FUKI)だ。DOLL$BOXXは、Gacharic Spinの特徴である高揚感の長調での表現をヘビーメタルの特徴である不安感のある短音階に置き換えたような、よりドラマチックで疾走感のあるハードロックを演奏する。DOLL$BOXXは、Gacharic SpinとUnlucky Morpheusの何処か中間にある存在なのだ。

KOGAとMISAは、所属バンドの間には特に類似性はないものの、ロックの世界では同じような位置にいる。2人を結びつけるのは、両者とも超絶技巧的アプローチでベースに取り組んでいるという点だ。ザ・フーのジョン・エントウィッスルやプライマスのレス・クレイプールのようなクリエイティブな演奏家の足跡を追うように、MISAとKOGAの演奏には聴き手の注意をベース演奏に向けさせる並外れた能力を持っている。 ボーカルやギターなど糞食らえとでも言うかのように。

ベースは、ロックバンドの中で最も見過ごされ最も正当な評価を受けていない楽器なのだから、ベーシストがそれをやってのけるのはすごいことだ。

「3」

ベースは演奏が極めて難しい楽器だ。弦は笑ってしまうほど太く、スケールも信じられないほど長く、フレットはギターと比べて間隔がぐっと広いのだ。

プロ用の楽器を2つ比べてみよう。1つは、PRS Custom 24ギター(アメリカ製)で、これはBAND-MAIDの歌波のギターと同じようなものだ。スケールは25インチ(63.5センチメートル)で、重量は7.0ポンド(3.17キログラム)だ。もう1つは、E-II Stream SL-5ベース(メイド・イン・ジャパン、もちろんダジャレだ)で、これはAldiousのサワが演奏するベースギターと同じようなものだ。スケールは35インチ(88.9センチメートル)で、重量は10.7ポンド(4.9キログラム)だ。計算が苦手という方のために計算式を説明しよう。ベースのスケールは、なんと10インチ(25.4センチメートル)も長い。比率にして40%も長いのだ。つまりより長いスケールを駆け巡らなければならないということだ。ベースの重量は、ギターと比べると3.7ポンド(1.7キログラム)も重い。比率にして52%増だ。それを首にかけて動き回るとなると大変な重量であるし、2時間を超えてぶっ通しでライブ演奏するならなおさらだ。

KOGAとMISAは、どちらも5弦のベースを演奏している。特注で軽量の楽器を作らせている可能性もないわけではないが、木材は密度が高い方が音質がよくなるので、おそらくそうではないだろう。何れにせよ、5弦のベースは大抵、9ポンドは下回らない。

「4」

さらに、20世紀のロックの世界は男性優位で、女性ベーシスト、特にパンクバンドに所属する女性ベーシストを蔑視するという悪しき傾向があった。それがわかる事例は山のようにある。例えばトーキング・ヘッズは、「ベーシストが見つからなかったからドラマーの彼女にベース演奏を覚えてもらった」という。また、気難しく不機嫌な自己中心主義者とでも呼べる人がいるならまさにこの人とでも言えるデヴィッド・バーンは、バンドですでにヒットアルバムが出ておりメインストリームでの成功を収めていたにも関わらず、ティナ・ウェイマスが女性ベーシストだというだけでオーディションのやり直しを強行した。それなのに彼は、1980年代初頭に、ファンク界のレジェンドであるバスタ・チェリー・ジョーンズをトーキング・ヘッズのライブショーに加えようとした。身勝手とはこのことだ。

それにしても、ベーシストはこれまで、バンドへの貢献が十分に認められたことはない。現在85歳になる伝説的なキャロル・ケイも、クラックセッションバンドThe Wrecking Crewのメンバーとして、長年無名で活動に精を出していた。彼女はベースに転向するまで、ビバップの天才的ギタリストとしてキャリアをスタートさせており、スタジオではリッチー・ヴァレンス、ザ・ビーチ・ボーイズ、フランク・ザッパなど多様な面々をベーシストとして支えていた。しかしこの驚異の女性が世界に認められたのは、それから何年も経ってからのことだった。

「5」

KOGAとMISAの演奏スタイルはかなり異なる。DOLL$BOXXの演奏を収録したDVD『high $pec High Return』では、KOGAは主にフィンガー奏法で演奏しているように見える。ベースの伝統的なフィンガー奏法では、人差し指と中指で交互に弦を弾くことでビートを維持する。このスタイルでは、ビート維持のための撥弦とファンク音楽でよく聞かれる「スラップアンドポップ」のベースの装飾音型の切り替えを、極めて自由に行える。

スラップアンドポップ奏法では、ベーシストは親指で低音域の弦をスラップし、人差し指または中指で高音域の弦をポップする。親指と人差し指または中指を交互に用いる奏法は、ディスコ音楽でよく聞かれるオクターブビートでも使われるものだ。このオクターブ奏法の好例として、Gacharic Spinのポップスリラー「シャキシャキして!!」のBメロが挙げられる。

KOGAはフィンガー奏法の名手だが、最近のGacharic Spinの生配信では主にピックを用いているようだ。だから何だと言うのだ。結局のところ、KOGAは楽曲に合わせて奏法を変えているというだけのことだ。大切なのは、何が彼女のこうした音楽的選択の背後にあるのか、という問いだ。

「6」

MISAは、生配信では主にピックを使っているようだ。彼女はインタビューで、ピックだとより打つように撥弦できることから、BAND-MAIDのアグレッシブな楽曲により適した音が出せると語っている。もちろん彼女は、フィンガー奏法の方が適している場合には、時折フィンガー奏法も披露してくれる。彼女の場合も、どのような考えからその選択に至っているのかを紐解いてみたくなる。

KOGAと同じように、MISAもスラップアンドポップ奏法の類い稀な名手だ。 MISAはまさに息を呑むようなスピードで、ピック奏法からスラップアンドポップ奏法に切り替えられる。ベーシストの中には、ピック奏法の部分が終わるとピックをステージの床に投げて、ポップ奏法の最後の音符が終わると新たなピックをマイクスタンドから取る人もいる。MISAはそうではなく、ピックを親指の付け根と人差し指の間で掴んでおくテクニックを好む。そして、スラップは親指で、ポップは中指で行う。そう、人差し指ではなく中指でポップするのだ。スラップアンドポップ奏法の部分が終わると、彼女は素早くピックを通常の位置に持ち替える。MISAはインタビューで、驚くべきことに、このように複雑な奏法が要求されるにも関わらず、BAND-MAIDの「お給仕」では2枚を超えるピックを使うのは稀だと語っている。

「7」

さらに、MISAの演奏技術は折り紙つきだ。彼女は世界で最も権威のある音楽学校の1つである東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校を卒業しているのだ。マサチューセッツ州ボストンのバークリー音楽大学をご存じなら、それに並ぶ輝かしい学歴と考えて差し支えない。

そこで気になるのだが、MISAのような技術の持ち主はバンドの中でどのような役回りを担うのだろうか。その答えは、場合によりけりである。バンドは最近のインタビューで、『Unseen World』の録音中にMISAは抑制を効かせるよう頼まれていたことを匂わせる発言をした。それは納得できる話だ。なぜなら、このBAND-MAIDはしばしば各アルバムでそれぞれ異なる音楽的ビジョンを提示することを狙っているからだ。『Unseen World』の場合、そのビジョンとは、たとえ混沌としようと圧倒的にアグレッシブな形でこの世界を描き出すことであったように思われる。

誤解しないでほしい。『Unseen World』でもMISAが注目の的となる瞬間はある。ファンであれば、傑作「NO GOD」でボーカルの彩姫の迫力ある「get down!(伏せて!)」に続くセンセーショナルなファンキーベースソロが思い浮かぶはずだ。また、狂ったほどにテンポの速い「H-G-K」で、バンドの他のメンバー(いつでも目を見張るボーカル彩姫、天才師匠的な歌波、狂気じみたドラマー茜、そして完璧な祝祭的雰囲気を醸し出す名手のミク)が全員火山の縁で転落スレスレで踊り続けるかのように演奏する中、MISAだけはコントロールを保っている姿も思い浮かぶだろう。

「8」

しかし、「抑制を効かせる」ようにとの指示に関しては、疑問も湧いてくる。『Unseen World』のどこまでも疾走感のあるリズムの中では、技巧のひけらかしを行う余地がほとんどないのは確かである。しかし、スタジオでの演奏を2021年2月11日の「お給仕」と比較してみることは興味深い。(この「お給仕」は2021年5月にDVDとブルーレイで発売されるので、ファンはこの例を確かめることができるようになる。)

楽曲「Black Hole」は、BAND-MAIDのファンの間では、同バンドが録音した中で最もテンポの速い作品として悪名高い。 何と220BPMもあるのだ。スタジオ録音では、ミックスの中からMISAの音色を掬い上げて聴き取るのは難しい。しかしライブ演奏では、MISAが野性味溢れる速度のピック奏法とフレットボード全体を駆け巡るポップアンドスラップ奏法を交互に披露するのが聴き取れる。

Aメロの1番の終盤に、素晴らしいアングルからの映像がある。MISAがピックを親指の付け根の「隠し」ポジションから演奏ポジションに動かす瞬間が見られるのだ。彼女はこれをやってのける唯一のベーシストであるというわけではないが、MISAのようなマジシャンが使うトリックをこれほど近くから見られることはそうそうないことだ。

「9」

しかしMISAは技巧のひけらかしをしているわけではない。彼女は自身がバンドの中で担っている役回りを深く理解している。 「Thrill」のライブバージョンでは、自身の役割とは単に雷鳴のような音色を響かせることであるとわかっている。指を交互に使う定番のフィンガー奏法で、彼女は曲のほぼ全体を通して、茜の4分の4拍子のビートをなぞっている。リズムセクションの演奏は極めて正確で、時計を合わせるのに使えるほどだ。「Thrill」でその例外となるのが、歌波のギターソロに先立ってMISAに一瞬スポットライトが当たる部分である。しかしこの部分でも、MISAのソロは抑制が効いていて趣向がいい。自然界では稲妻が光ってから雷鳴が響いてくるのが常だが、ここではそれとは逆に、MISAのかすかな雷鳴がお膳立てとなって、歌波の息を呑む稲妻のごときソロが炸裂する。

同様に、「Manners」のライブバージョンでMISAが演奏するふつふつと沸くような低音は、スタジオバージョンと比較すると啓示的である。

BAND-MAIDの楽曲はテンポが速いため、MISAの演奏は時としてデスメタルのいくつかの特徴を帯び、半音階や三全音も使用される。また、BAND-MAIDをサルサバンドと間違う人は絶対にいないだろうが、彼女の演奏からは時としてサルサ音楽のラテン的な和声や8分の6拍子が聞こえてくる。それは言い過ぎかもしれないが、ほとんど演奏される機会のない「start over」などの楽曲でのベースの動きは完全に啓示的なものであると言える。

最後に、MISAが2020年のダウンタイムをソングライティングに費やしたと発言していたことも興味深い。彼女はこれまで、アルゼンチン人でピクシーズで活躍するパズ・レンチャンティンやメキシコ人のルイード・ロサまで、様々な音楽に興味を示してきた。そのため彼女がどのような作品を書いていたのか、わかる日が来るのがとても楽しみだ。

「10」

KOGAに「控えめにして」などと頼む度胸のある人はいないように思われる。彼女は常に動き回る、ダイナミックな女性だ。 ドラマーとリズムを合わせてビートを前に進めるだけの時でも、KOGAには無視できない存在感がある。

それでもKOGAはどこか謎めいた存在だ。彼女の演奏スタイルは、Gacharic SpinとDOLL$BOXXで完全に異なっているように思われるのだ。しかし彼女のベースは、どちらのバンドでも音響のかなりの部分を占めているので、彼女には自然と注意が向く。

「11」

DOLL$BOXXで厄介なのは、このバンドはアメリカの公認会計士が言うところの継続企業の前提がある団体ではないということだ。DOLL$BOXXは、1枚のフルアルバム(2012年の『DOLLS APARTMENT』)、1枚の5曲収録のEP(2017年の『High $pec』)、そして1枚のDVD(2018年4月15日のTOKYO DOME CITY HALLでのライブの様子を収めた『high $pec High Return』)をリリースしているのみだ。メンバー全員が他に所属するバンドでの演奏活動をメインにしていることから、DOLL$BOXXはせいぜい都合のつく時に集結するという位置付けのサイドプロジェクトにしかならないのだ。しかしたまげた。サイドプロジェクトだとは到底信じられない。

DOLL$BOXXは、ハードロックの中でも限りなくメタルに近い。メタルだと思うかどうかは、それぞれ個人がメタルをどう捉えているかに全面的に依存する問題だ。しかし、これがメタル音楽だとすれば、これほどファンキーなメタル音楽はない。なぜファンキーかというと、KOGAが常にフレットボード上で渦を巻くように上行と下行を繰り返すからだ。彼女なら簡単に、ロックの4つ打ちの4分の4拍子のテンポを演奏できる。それももちろん、鐘を鳴らすような粒揃いのよさで8分音符を演奏できる。それにロッキングな16分音符だってお手の物だ。しかし何がファンキーかというと、MISAとレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーを除いて、KOGAほど魂を込めて演奏するロックのベーシストはなかなか思いつかないのだ。

もう1つ特筆すべきこととして、『DOLLS APARTMENT』がリリースされてから『High $pec』がリリースされるまでの間に、KOGAは5弦のベースを入手している。人生が変わる出来事というものがある。KOGAにとってはこの瞬間がそうだった。彼女のベースへのアプローチが完全に変わったのだ。「Take My Chance」などの楽曲のスタジオバージョンとライブバージョンの間には、ベースの奏法に関して無視できない違いがある。どちらも同じ調性だが、彼女がステージで披露する複雑な小技や装飾から判断すると、KOGAは新たなクリエイティビティーのレイヤーを見出したようだ。

「12」

火山のようなロック音楽が好きで、まだ『high $pec High Return』をお持ちではない場合、買わなければ後悔することになる。この演奏は十分、21世紀屈指のライブに数え入れることができる。まさにパワー絶頂のバンドの姿を記録した、稀な資料だ。1996年3月13日のニューヨーク市のパラマウント・シアターでのオアシスの姿を見られるようなものだ。あの夜のオアシスと同じくらい、「モーニング・グローリー」に匹敵するほど、DOLL$BOXXはあの特別な夜に最高の演奏をしてくれた。DOLL$BOXXの楽曲音声がストリーミングプラットフォームやCDでリリースされたことがないのは非常に残念なことだ。

「Loud Twin Stars」の最初の耳を劈く音符から「ブラックサバイバル」の最後の極めて統制の効いたFUKIのビブラートまで、バンド全体が、中でもとりわけKOGAが、ノリノリに演奏していることが伝わってくる。 はなとオレオレオナはどちらもGacharic Spinの素晴らしいボーカルだが、FUKIの歌声、ステージ上での存在感、そして身のこなしは他の追随を許さず、彼女はほぼ誰にも真似できない興奮の高みに楽曲を引き上げてくれる。

演奏の音響の中でKOGAのベースが主要な部分を占めることから、ドラム/ボーカルのはなと火を吹くようなギターのTOMO-ZOには与えられているソロセクションがKOGAには与えられずスポットライトが当たらないことは、不公平に思える。ベーシストなら誰でもそうだろうが、KOGAは喜んで他のメンバーと並んでスポットライトに浴するだろう。

「13」

しかしKOGAは常にスイッチが入っている。彼女の勢いは決して、決して止まらない。 KOGAの演奏でまさに驚異的なのは、同じ曲の中で演奏方法やスタイルを変える能力だ。ショーの終盤、「KARAKURI TOWN」と「世界はきっと愛を知ってるんだ」においては、彼女は明らかに楽曲の大部分でピックを用いている。しかし、定番のフィンガー奏法やスラップアンドポップ奏法も、明らかに用いているのだ。映像編集では彼女に十分カメラタイムが与えられていないため、彼女がこの魔法をどのようにこなしているのかはわからない。彼女のマイクスタンドには予備のピック一式が手付かずで残っているようなので、彼女もMISAと同じくらいクレバーなトリックを使っている可能性もある。しかしMISAとは異なり、KOGAはポップ奏法には人差し指を使っているようだ。とすると、ピックはどう掴んでいるのだろうか。絶対に解けない謎というものがある。これもその1つかもしれない。

DOLL$BOXXに焦点を当てて取り上げているが、これはGacharic Spinを過小評価することを意図してのことではない。Gacharic Spinも、ビジュアル面の風変りさとは裏腹に、真に驚異的なバンドだ。エネルギッシュなボーカルのアンジェリーナ1/3の加入で、グループのステージ上での性格が変わった。まだ10代のボーカルに、すでに定評のあるロックグループで先頭に立つという極めて大胆な大役をこなす自信があるとは思えない。アンジェリーナ1/3はSNS上で見る限り、どこにでもいる可愛らしくて普通の女の子という感じだが、彼女にはその自信があるのだ。

さらに、ドラムのyuriが加入したことで、素晴らしいボーカルであるはなが真のフロントウーマン、そして第2ギタリストとして自由に活躍できるようになった。ということで、Gacharic Spinは素晴らしいバンドだということが結論だ。

「14」

Gacharic Spinのほとんどの楽曲は、長調のお祭り騒ぎだ。去年出たメインストリームのロックの楽曲の中では、『Gold Dash』収録の「the first star」が最高傑作だったかもしれない。この作品ではなは、どんなボーカルにとっても絶頂と言える、まさに記憶に残る瞬間、よりフェアな言い方をするといくつもの瞬間に到達したのかもしれない。KOGAの役割とは、4分の4拍子のビートを維持することだ。しかしAメロでは、彼女は想定されるより1オクターブ高い音域で演奏している。そのため聴き手の注意は、はなが息を呑む歌声を披露する瞬間であるにも関わらず、必然的にKOGAの方に逸れていく。するとサビでは、KOGAはローB弦とE弦まで音域を下げる。すると彼女のベースは突然、轟く集中砲火になる。1916年7月1日の日の出前、ソンムの戦いに挑むイギリス海外派遣軍の大砲は、このように響いていたのかもしれない。

しかしKOGAは、聴き手に集中砲火を浴びせる以外にも、様々なことができる。 実は、Gacharic Spinの作品にはバラードが極めて少ない。『MUSIC BATTLER』収録の「またね」はその数少ない例だ。KOGAは絶えずビートに集中する。しかし曲の終盤には、彼女のベースの微かな装飾が実際にはボーカルの激しさを際立たせる効果を醸し出している。

「15」

F チョッパー KOGAとMISAに関して、他に言うべきことはあるだろうか。

ビジュアル面の性格に関しては、KOGAはEnergizer社の電池の宣伝に出てくるうさぎのマスコット、もしくはポケモンのバネブーのように跳ね回る。 2020年10月8日の生配信での「JUICY BEATS」の演奏では、KOGAとはなが猛スピードの中向き合って演奏し、あまりに接近するので額が接触するという素晴らしい場面があった。はながKOGAを後ろに押しやって場面はひと段落ついた。

お互いと真に心を1つにしたバンド仲間、それもお互いを実際に愛しているバンド仲間が、何の制約もなく喜びを爆発させるこうした瞬間というのは、日本のロック音楽が極めて特別である所以の1つだ。イーグルスのドン・フェルダーが、ライブの途中で、バンド仲間のグレン・フライに対して「おい、ライブはあと3曲で終わる、終わったらお前のケツを蹴ってやるぞ」などと怒鳴るのが聞こえてくるのは、アメリカだけなのだ。

「16」

MISAはクールで笑顔を見せない、 まさにザ・フーのジョン・エントウィッスルのような典型的なベーシストだ。もちろん、バンドメンバーが彼女を笑かすと、この超自然的なクールさは何処へやら、彼女は笑いが止まらなくなる。ここでも、何の制約もなく喜びを爆発させるという点が通底している。

2019年のパリでの「Moratorium」の演奏の様子を、YouTube動画で確認してほしい。この動画は、ファンの間では有名だ。なぜなら、歌波がギターソロの最後で茜のシンバルの1つを蹴るシーンがあるからだ。しかしその前に、MISAが膝をついて歌波の方に這っていき、歌波の額にキスをするという、奇怪でありつつも微笑ましいシーンがある。「MISA!MISA!MISA!」というフレーズがBAND-MAIDのファンの間で通じるようになっていることには、このようにきちんと理由があるのだ。

「17」

長くなったのでまとめると、MISAもKOGAも信じられないくらい見ていて楽しいということだ。

最後にもう1つ。2019年12月のニューヨーク市のグラマシー・シアターでのBAND-MAIDの「お給仕」では、演奏の最初から最後まで、MISAは靴を履いていないように見受けられた。ドレスが長いので判別しにくいが、生配信の動画を見る限り、彼女は決してステージで靴を履かないようだ。一体どういうことだろうか。

「18」

結論はこうだ。F チョッパー KOGAとMISAは、世界で最も興味深く、クリエイティブで、燃え上がる炎のような、屈指のベーシストに数えられる。 2人はエキサイティングで心底楽しめるベーシストなのだ。検診で心臓に異常なしの人にしか聴けない演奏を披露してくれる。

KOGAとMISAはどちらも、アグレッシブでハードロッキングなバンドで演奏している。どちらも、本来4分の4拍子にただ合わせて音を鳴らすだけでもいいのに、他のジャンル、特にファンクの要素を重ねてくることで、バンド全体の演奏をさらに高揚させてくれる。

2人のソロは伝説的だ。しかし、Aメロ、Bメロ、サビ、そしてCメロでのKOGAとMISAの演奏こそ、玄人好みでより音楽について教えてくれることが多い。2人の装飾は絶妙で、それだけで息を呑むものだ。F チョッパー KOGAとMISAは、まさにベースの名手なのだ。

For the English version of this article, please click on “English” at the top of the page.

ページトップの「English」をクリックすると、本記事の英語版を閲覧できます。

Written by

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です