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IBUKI:孤高のビジョン。『ExMyself』レビュー

IBUKI:孤高のビジョン。『ExMyself』レビュー - Raijin Rock
IBUKI:孤高のビジョン。『ExMyself』レビュー

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ボーカリストのIBUKIはこれまで、21世紀日本で最も重要なミュージシャンらと共演してきた。それには、作曲家/ギタリストのMina隊長(DESTROSE/FATE GEAR)、成美(Disqualia)、そしてRie a.k.a. Suzakuなどが挙げられる。これら3人の女性は皆、正真正銘の天才だ。IBUKIがこれらの面々とコラボレーションすることで、まさに記憶に残る、しばしば眼を見張るパフォーマンスが生まれてきた。

しかし、IBUKIが最も説得力のある姿を見せてくれるのは、ソロリリースにおいてだ。例えば、シングルの『Rise/We Are No. 1』と『High Tension』、そして2019年のアルバム『ExMyself』はヨーロッパではこのほど新たなボーナストラックを加えて再リリースされた。

「1」

IBUKIは、聞けばすぐに彼女のものとわかる歌声の持ち主だ。声質は明瞭でパワフルだ。どちらも『ExMyself』収録の「Jealousy & Desire」もしくは「Deserted memory」でのIBUKIの歌声以上に美しい音は聞くことができない。

しかし、彼女がとても興味深いアーティストである所以は、単にその歌声だけではない。そうではなく、IBUKIの真骨頂とは、驚くべきほど精確で一貫性がありシンプルでもある、彼女だけのアーティストとしてのビジョンを追い求めてきたというところにあるのだ。

「2」

IBUKIは、全ての楽曲の作曲と作詞を自ら行っている。彼女の楽曲はエネルギッシュなメロディックメタルだ。その多くにはある種のテンション、つまり緊張感が通底しており、その緊張感を彼女の歌声に秘められた情熱がより高めてくれる。彼女の楽曲はどれも、「HIGH TENSION」という曲名が似合うものだ。

IBUKIの楽曲は、他の一部のアーティストの楽曲と比べると、最初はとっつきにくい。とっつきやすさより、何度も聴くことで意識の中に忍び込んでくる魅力があるのだ。一瞬で耳から離れなくなる楽曲といえば唯一、「shake your body」が挙げられる。ディスコのメタルストンプのようにキャッチーな楽曲だ。しかし、IBUKIのメロディーにはある種のロマンチシズムが内在しており、それによってメロディーが忘れられなくなる。このロマンチシズムは、「Jealousy & Desire」や「Sky above」のようなパワーバラードだけではなく、燃えるような高速テンポの「ExMyself」や「Rise」にも見て取ることができる。

「3」

IBUKIは、シンセサイザー、プログラム設定、そして最も重要なこととして、アレンジを担当している。IBUKIのアレンジは、ロック音楽を提示する最高の方法を教えてくれる模範例だ。器楽はベース、ドラム、IBUKI自身がプログラム設定を行ったシンセサイザー、そして主にCROSS VEINのMASUMIとShinjiが演奏するギターだ。

制作スタイルは定番そのものだ。リズムギターがボーカルを包み込み、ボーカルがベースとドラムとともに音響の中心を占めている。ギターソロセクションでは、第3、そして時折第4のギターが中心に躍り出る。

キーボードとシンセサイザーはしばしば、「un soldat」において見受けられるように、イントロや器楽間奏において重要な役回りを演じる。しかし、IBUKIが歌うときには裏役に回る。そのため、聴き手は常にIBUKIに注意を向けられる。まさにあるべき姿だ。

「4」

IBUKIには、楽曲アレンジに関して本物の才能がある。彼女の楽曲にはしばしば、予想外でドラマチックな瞬間が訪れる。 こうした瞬間は時折極めて短いものであるが、聴き手を驚かせてくれる。この戦略は、100年以上にわたってポピュラー音楽のベースとなってきた標準的なAメロ-サビ-ソロ-Cメロという構造のマンネリ化対策として、現代のアーティストが取り入れてきたものである。

「5」

例えば、『ExMyself』の冒頭収録曲である「Falling Bird」においては、Aメロからそのままサビにつながるのではなく、わずか一瞬だが全くの無音となるハードストップが訪れる。聴き手は耳をそばだてる。2回目にもハードストップがあるが、今度はIBUKIが何かをぶつぶつ言っている。聴き手は否応なしに、これに気づいて一体彼女は何を言っているのだろうかと不思議に思うことになるのだ。

サビを3回繰り返した後、この曲はテンポが変わり、IBUKIはゆっくりだがゴージャスなCメロを歌う。彼女の歌声は突然、エンジン全開の轟音から優しくて魅力的な快音に変化する。このCメロを歌い終えた彼女は、ソフトで喘ぐような声をあげる。1975年に崇高なドナ・サマーが「Love To Love You Baby」で披露した歌声に匹敵するほど官能的だ。

このCメロは、加速していくドラムロールにつながっていく。しかしこのドラムロールはまだ、楽曲を元のテンポと熱量に戻すことはしない。そうではなく、全てが静まり、シンセサイザーがオープニングの主題を繰り返すのだ。そして最後に、楽曲は爆発するかのように最後のクライマックスに突入していく。「Falling Bird」にはギターソロすらない。Aメロを彩る複雑なリフで十分ギターの超絶技巧が登場するので、ギターソロなど不要なのだ。

「6」

BPMを突然落としたり、予期せぬところでドラムロールを用いたり、一瞬のラップセクションを設けたりというこれらのトリックを、IBUKIはほぼ全ての楽曲で用いている。こうしたアレンジの要素は些細なものに感じられるかもしれないが、それで楽曲はぐっと面白くなり、さらに重要なことに彼女の楽曲に野性味溢れる興奮感を与えてくれる。このように細部に気を配る姿勢は、IBUKIがどれほど丁寧に音楽に向き合っているかを垣間見せてくれるものだ。聴き手には、次に何が登場するのか予想できなくなるのだ。

「7」

ExMyself』収録の楽曲はどれも質が高い。ゴージャスなロマンチシズムと強烈なハードロックを対置させた「Jealousy & Desire」が名曲であることは明らかだ。楽曲終盤の転調ではIBUKIが急に新たな調に移るのだが、これもIBUKIが楽曲の中で作り出す息をのむ瞬間の1つだ。

「Break Out!」のリズムには病みつきになるような逆らえない魅力がある。「Deserted memory」では、IBUKIの作品の中で屈指のエモーショナルな瞬間が訪れる。彼女の歌声に秘められた溢れんばかりの情熱で表現された切望感は、まさにスピーカーから飛び出してくるようだ。(スピーカーは1974年前後のCerwin-Vega Model 211Rなので、かなりパンチのある音響を楽しめる。)「Sky above」も、輝くような感情で溢れている。『ExMyself』収録の楽曲にはどれも、それぞれ1つまたは複数の、その楽曲にしかない魅力がある。

「8」

すでに『ExMyself』のオリジナル版をお持ちでも、新曲の「Door To The New World」目当てに『ヨーロッパSpecial Edition』を購入すべきだ。IBUKIの全ての楽曲において言えることだが、この新曲でもオーケストラが挿入されたり野性味溢れるギターソロが演奏されたりと、曲は予期せぬ方向に動いていく。その中で内臓まで届くようなハードパンチが展開されていく。シングルも絶対に聴くべきだ。

IBUKIの『ExMyself』は、ユニークで明確、同時にパワフルな自分自身のビジョンを持っているアーティストがどれほどのパワーを表現できるかを証明する作品となっている。 さらにIBUKIは、自身の世界観を自身のやや独特な方法で表現することにこだわっている。IBUKIは芯の通ったアーティストだ。それ以上の褒め言葉はないのではないだろうか。

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